2016 Fiscal Year Annual Research Report
身体や情動に訴えかけるセンシュアルな音響質感メディアの研究
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding human recognition of material properties for innovation in SHITSUKAN science and technology |
Project/Area Number |
16H01665
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
仲谷 正史 北海道大学, 電子科学研究所, 研究員 (90714965)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 感性情報学 / 聴覚 / 触覚 / 体性感覚 / 質感 / 情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度の研究では、バイノーラル録音方式で得られた耳に近接した音響刺激を複数種類集め、その中で代表的な聴覚刺激の主観評価を行った。当初の予想では、これらの聴覚刺激により、聴取者はリラックスし心地よく感じると考えていた。しかし、被験者実験の結果、これらの刺激を聴取するとむしろ覚醒度が高まり、かつ不快に感じることが明らかになった。この理由は2つ考えられる。1つ目は、聴覚刺激そのものが不快であるという理由である。素材音の中には金属板を擦過した音や、ホワイトボードにペンで書いた時の「鳴き音」を採取したが、これらの音源は不快と判断されやすい。2つ目の理由として、身体に近接した空間(ペリパーソナルスペース)を物体が横切るように感じられるため、危険を察知する何らかの機構が働いた可能性がある。 一方で、集めたバイノーラル音源の一部において、鳥肌感を高い頻度で誘起する刺激を見つけることができた。音響刺激における鳥肌感の研究は主に音楽聴取時に得られる鳥肌感の研究が多く、刺激の聴取時間は数十秒から数分にわたる。今回見いだすことができた鳥肌感を引き起こすバイノーラル音源は長くて30秒程度であり、聴取してからわずか数秒で鳥肌感を生起することができる。このことより、音楽聴取によって得られる鳥肌感とは異なるメカニズムでその主観効果が得られている可能性が考えられる。この点については、H29年度に詳細な検討を進めてゆく考えでいる。 加えて、バイノーラル記録した素材音を利用して、聴覚と身体感覚に訴えかける多元質感メディア作品の制作を行った。作品制作の際には、MAX/MSP上で制作支援システムを構築した上で、現代音楽作品を制作した。学会における研究者向けの芸術展示、ならびに一般の方向けにそれぞれにおいて作品展示を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ASMR(自発的に官能的な感覚をもたらす反応)現象に着目し、この主観的な反応を引き起こす音源の制作は順調に進んだ。しかしながら、これらの聴覚刺激が、聴取者にリラックス感や心地よさを提供するという予測は外れ、むしろ覚醒度が高まり、かつ不快に感じることが実験的に明らかになった。この原因を探索するために録音条件(機材・録音環境)の不備を確認し、また異なる音環境において同一素材から発生する聴覚刺激の追加録音を試みたが、それらの音響特徴の傾向は大きく変わらなかった。この予備検討に多くの時間を割いたことから、当初予定していた生理応答の計測を進めることができなかった。ただ、センサ選定の予備的な検討を行っており、H29年度には、本実験を行う予備実験を取り急ぎに行うことで、研究の遅れを取り戻す。そして、鳥肌感の生起を生理応答に基づいて客観評価可能であるのかについて検討を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の検討により、高周波帯域まで含む聴覚刺激が鳥肌感を生起することが推測された。この予測を検証するために、では鳥肌感を生起させる代表的な聴覚刺激にローパス/ハイパスフィルタを通した刺激を作成し、被験者実験に利用する。予測が正しければ、ハイパスフィルタを通した聴覚刺激において、より強い鳥肌感が報告されるはずである。 また、バイノーラル録音された音源の左右の音を一つに合成し、両耳に同じ音を提示することで時系列の音響イベントは同一で立体音響特徴を減弱した刺激を作成することができる。もし音源が音響空間中を移動する感覚が鳥肌感の生起に関係しているのであれば、立体音響が減弱された場合には、鳥肌感も減弱することが予想される。このことを実験的に検証し、鳥肌感の生起に立体音響が貢献していることを確認する。 音楽の聴取に伴う感動が引き起こす鳥肌感においては、生理応答として皮膚電位反応が生じることが知られている。このことから、鳥肌感を生じさせるバイノーラル録音で記録された素材音によっても生理応答が生じることが予測される。皮膚電位反応もしくは瞳孔散大反応を指標として、聴覚刺激が身体にもたらす効果、ならびに鳥肌感生起の有無との相関を検討する。 H28年度は主に聴覚刺激に特化した検討を行ってきた。素材が生じる聴覚刺激を音だけでなく振動触覚刺激として同時に提示することで、聴覚だけで得た場合よりも、その素材の質感を高めることが知られている。この知見を援用し、聴覚刺激だけにこだわらずに、聴覚刺激と触覚刺激の同時提示による感覚統合や感覚間の相互作用についての検討を加える。これにより、身体に訴えかける音響質感メディアを開発するにあたって必要な基礎知見の獲得と、その応用先の幅を広げる考えでいる。
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Research Products
(6 results)