2017 Fiscal Year Annual Research Report
南極コケ坊主におけるウイルス叢の解明とウイルス化石の探索への応用
Publicly Offered Research
Project Area | Neo-virology: the raison d'etre of viruses |
Project/Area Number |
17H05821
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
堀江 真行 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (20725981)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | コケ坊主 / ウイルス叢 / 内在性ウイルス様エレメント |
Outline of Annual Research Achievements |
コケ坊主は南極の一部の湖の底に林立する柱状の構造物であり、多数の生物が存在する。南極の湖は栄養にきわめて乏しく、外部からも隔離された環境である。また、コケ坊主の外層と内層では部位ごとに役割の異なる微生物が生息しており、その中だけで主たる物質の循環が完結すると考えられている。つまり、コケ坊主は半鎖系の生態系であると考えられる。ウイルスは宿主となる微生物を溶解することにより、微生物生態系の維持に重要な役割を果たす。コケ坊主の微生物コミュニティにおいてもウイルスの共存が重要であると考えられるが、その実態は不明である。本研究では南極のコケ坊主におけるウイルス叢の探索を行い、コケ坊主に存在するウイルス種および宿主との相互作用の解明を目指す。さらには得られた遺伝子情報を利用し、生物ゲノムに存在するウイルス由来の遺伝子配列である内在性ウイルス様エレメントの探索を試みる。得られる知見はウイルス多様性の理解のみならず、ウイルスと宿主の相互作用・共進化に関する知見を提供する。 本年度はディープシーケンシングによるコケ坊主内のウイルス叢の探索を試みた。De novoアセンブルとBLASTxによる解析の結果、多数のDNAウイルス様配列の検出に成功した。検出した配列の多くはバクテリオファージ様の配列であり、既知のファージとはアミノ酸レベルで40~80%程度の配列一致率であった。またFLDS法を用いたRNAウイルスの検出も試みたが失敗に終わった。一方、近年報告された多数の新規ウイルスの配列を利用して、内在性ウイルス様配列の検出を試みた。その結果、ヒトを含む多数の脊椎動物のゲノムに未報告の内在性ウイルス様配列が多数存在することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. コケ坊主の外層より1箇所、内層より2箇所サンプリングを行い、ショットガンメタゲノム解析によりコケ坊主内のDNAウイルス様配列の探索を行った。その結果、多数のDNAウイルス様配列が検出された。検出された配列の多くはバクテリオファージ様配列であった。系統樹解析の結果、既知のバクテリオファージ様配列とは遺伝的に異なる新規のウイルスであることが示唆された。また巨大ウイルス様の配列も検出されており、現在詳細な解析を行っている。 2. 次に、RNAウイルスの網羅的な探索法であるFLDS (fragmented and loop primer ligated dsRNA sequencing) 法により、コケ坊主内RNAウイルスの解析を試みた。しかし、コケ坊主サンプルからのFLDS法によるライブラリの作成ができなかった。一方、FLDS法のコントロールとして用いた琵琶湖深水サンプルからはライブラリの作成をすることができた。このサンプルからは約10種類ほどの新規の二本鎖RNAウイルス様配列(既知のウイルスとのアミノ酸配列一致率60%未満)が検出された。現在、より詳細な解析を行っている。 3. 最後に新規内在性ウイルス様エレメントの検出を試みた。近年、新しいウイルスが多数報告されており、本研究ではヘビおよび魚から検出されたボルナウイルス科のウイルスに着目して解析を行った。その結果、ヒトを含む多数の生物のゲノムの中にこれまでに見つかっていなかった多数の内在性ボルナウイルス様配列が検出された。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. コケ坊主内のDNAウイルスの探索:今後は引き続きショットガンメタゲノムの解析を行うとともに、ポアサイズの異なるフィルターや密度勾配遠心による分画を組み合わせてウイルス画分を回収し、ディープシーケンシングによってDNAウイルスの探索を行う。また巨大ウイルスについてはディープシーケンシングのみならずPCRを組み合わせて巨大ウイルスのみを標的とした解析も同時に行う。 2. コケ坊主内のRNAウイルスの探索:コケ坊主サンプルよりRNAを回収し、ディープシーケンシングによって探索を行う。またDNAウイルスと同様にフィルターや密度勾配遠心を組み合わせた探索も行う。また副産物的に得られた琵琶湖深水におけるRNAウイルス叢の解析についても引き続き行う。ディープシーケンシングのリード数を増やし、ウイルスの全長配列の決定を試みる。また 3. これまでの解析により、新しいウイルスの発見は新しい内在性ウイルス様につながる、という仮説が正しいことが証明された。今回、新規に発見した内在性ボルナウイルス様配列について、内在化年代や系統解析等を行う。また、コケ坊主および琵琶湖の新規ウイルス様配列を用いた内在性ウイルス様エレメントの探索も同時に行う。
|
Research Products
(1 results)