2018 Fiscal Year Annual Research Report
オタマボヤ幼生の開口による3D形成と分泌による摂餌フィルターの3D構築
Publicly Offered Research
Project Area | Discovery of the logic that establishes the 3D structure of organisms |
Project/Area Number |
18H04763
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小沼 健 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30632103)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オタマボヤ / 脊索動物 / ライブイメージング / くち / 3D形態 / ハウス / セルロース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、脊索動物ワカレオタマボヤ (以下、オタマボヤ) の特長を活かした3D形態形成の解明を進める。具体的には、(1) 内胚葉と外胚葉の上皮がつながり「くち」ができるしくみ、(2) 表皮細胞から、3D構造をもった接餌フィルター(ハウス)が分泌される原理、の2つの解明を進めている。 (1)「くち」の3D形成 オタマボヤの口は、数十個と少数の細胞でできている。また幼生の孵化から7時間以内に出来上がるため、イメージングに有利である。開口する過程を観察したところ、他の動物の例と異なり、外胚葉の貫入ではなく、内胚葉細胞 (oral plugと命名)が外部に露出することが分かった。さらに核やアクチン(細胞膜とほぼ同義)のライブイメージングを行ったところ、体幹部の前端に「背腹方向に分裂する表皮細胞(lip precursor cellsと命名)」が2つあり、それらの娘細胞がそれぞれ上唇、下唇になるという現象を見出した。 (2)ハウスの3D形成 オタマボヤは表皮細胞から分泌するハウスというフィルター構造の中に棲む。体幹部は、折り畳んだ状態のハウス (ハウス原基)を常に2-3枚まとっており、外側の1枚を膨らまして使用するのである。本年度は、ハウスやハウス原基の構造を把握することを試みた。ハウスはセルロースを含むことが知られている。そこでセルロースの蛍光染色を行ったところ、海水の入り口 (inlet filter)に縦糸・横糸でできた格子状の網目を見いだした。この格子構造は、ハウス原基にも存在していた。さらに走査型電子顕微鏡 (SEM)で観察したところ、これらの糸は、直径数十ナノメートルの繊維が組み合わさってできていることを見出した。またハウスの他の領域も、微細な繊維が編み込まれてできていることが分かってきた。これらの結果は、ハウスが「繊維状の素材」を構成単位としてできていることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)「くち」の3D形成については、その全体像をつかむことに成功したといえる。一つひとつの細胞の振る舞いをライブイメージングできるオタマボヤの特質を活用することで、「外胚葉が貫入するのではなく、内胚葉が外部に露出することで開口すること」や「体幹部の前端にあるlip precursor cellsが背腹方向に分裂し、その娘細胞同士が上唇と下唇に分かれること」など、他の動物の口腔形成とは異なる知見を見いだした。
(2) ハウスの3D形成についても、セルロースを含む繊維による格子状のフィルター構造を見出すとともに、ハウスの構成単位が「繊維状の素材」であることが分かってきた。
(1)については、現在、論文投稿中である。(2)についても、新しい3D構造を見出すとともに、数理解析を行うための手がかりを得た。実際、すでに数学・物理・生物工学の専門家と共同した数理解析が始まりつつある。以上を踏まえて、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)は目的をほぼ達成した。今後は、(2)のハウスの3D形成の研究を進める。ハウスが「繊維状の素材」でできているという知見をもとに、現在、数学・物理・工学の専門家の協力のもと、数理解析を始めつつある。実験については、以下の5つを進めることで「実験と理論の融合による3D形成の解明」を目指す。 1. ハウスやハウス原基がもつ3D構造の把握。これまでのセルロース染色やSEM観察をさらに進めていく。またハウスの全体像を把握するため、ライトシート顕微鏡、マイクロCTによる観察を進める。 2. 小さい個体 (受精後1日目など)のハウスの観察。ここまでの観察はなるべく大きい個体 (受精後3-5日目)で進めてきた。ハウスを分泌する表皮細胞の数や分布は、個体の大きさによる違いがないことが分かっているためである。しかしながら、フィルターの「糸」は微小繊維が束ねられたものであるため、その本数・太さが個体の大きさによらず同じか否かは確認する必要がある。 3. 分泌直後のハウスの観察。オタマボヤは常にハウス原基を2-3枚まとっている。このため、ハウス原意を1枚のみにして観察するのが望ましい。そこで、人為的にハウスを脱がせて1枚のみにして観察するか、形態形成直後の1枚目のハウスをつくる過程を観察する。 4. 表皮細胞の役割。表皮細胞は一定の配列パターンをもち、領域特異的に特定のタンパク質(Oikosins)を分泌することが知られる。Oikosinsの抗体の染色によって、表皮の各領域とハウス・ハウス原基の構造との対応づけを試みる。また最近、共焦点レーザー顕微鏡をもちいた細胞破壊法を開発したので、これにより特定の表皮細胞を破壊し、ハウス形成への影響を調べる。 5. 細胞表面でセルロース繊維を組み立てる原理。細胞骨格(アクチンなど)の配向を阻害剤によって撹乱し、ハウスの格子構造がどのように影響されるのか調べる。
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Remarks |
(1)(2)はオタマボヤの左右非対称性な3D形成についての成果。 日経産業新聞 (2020年2月27日号)、日経サイエンス (2020年6月号)で取り上げられた。また毎日新聞、北海道新聞、Yahooニュース、Exciteニュース、Science Magazineなど、国内外の30以上のニュースサイトに取り上げられた。 (3)は胎生魚ハイランドカープが「妊娠」するしくみについての共同研究。
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Research Products
(26 results)
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[Journal Article] ANISEED 2019: 4D exploration of genetic data for an extended range of tunicates.2020
Author(s)
Dardaillon J, Dauga D, Simion P, Faure E, Onuma TA, DeBiasse M, Louis A, Nitta N, Naville M, Besnardeau L, Reeves W, Wang K, Fagotto M, Gueroult-Bellone M, Fujiwara S, Dumollard R, Veeman M, Volff JN, Roest Crollius H, Douzery E, Ryan J, Davidson B, Nishida H, Dantec C* and Lemaire P*
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Journal Title
Nucleic Acids Research.
Volume: 48(D1)
Pages: D668-D675.
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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