2019 Fiscal Year Annual Research Report
等比多成分酸化物ガラスにおける多重協奏的配位数変化による高クラック耐性の獲得
Publicly Offered Research
Project Area | High Entropy Alloys - Science of New Class of Materials Based on Elemental Multiplicity and Heterogeneity |
Project/Area Number |
19H05163
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
増野 敦信 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (00378879)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 弾性率 / 無容器法 / ハイエントロピー |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに無容器法によって,従来ガラス化しないと思われていたような単純組成域で,多数の高硬度ガラスの合成に成功してきた.本研究ではこれら硬いガラスに割れにくさ(高クラック耐性)を付与するメカニズムとして,負荷時における配位数変化を伴う効率的原子移動とその多重協奏的発現を提案している.このメカニズムは,高硬度ガラスのような高充填密度ガラスに特に顕著に働き,かつ多成分存在下ではカクテル効果による劇的な特性向上が期待される. 1年目の今年度は,Al2O3-Ta2O5系高弾性率ガラスをベースとしたハイエントロピー組成において,ガラス化範囲を探索した.その結果,Al2O3-Ta2O5-Y2O3-Nb2O5-Ga2O3五元系でのガラス化に成功した.全てのガラスが高弾性率を有していた.それだけでなくこの系ではガラス形成能が大幅に向上し,浮かせていなくてもガラス化する組成を見いだすことができた.また新たな組成系として,ガーネット組成でもガラス化を試みたところ,CaO-Sc2O3-SiO2三元系においてガラス化に成功した.Al2O3-SiO2二元系に対する添加成分としては,ZrO2やMgOが有効であることがわかった.とくにZrO2添加は,弾性率の劇的な増大をもたらした. 構造解析については,Al,Siに対するNMRの結果から,それぞれの配位数や非架橋酸素の数などを推定することができた.Alは5配位,6配位がメインで4配位は多くなかった.またSiは4配位で非架橋酸素はあまりなかった.これらのデータは,本研究で合成したガラスが,通常のネットワーク系ガラスの枠組みではとらえられない構造を有していることを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超高弾性率を有する54Al2O3-46Ta2O5ガラスをベースとして,多元系化,ハイエントロピー化を試みたところ,Al2O3-Ta2O5-Y2O3-Nb2O5-Ga2O3の5元系組成で幅広いガラス化範囲を見いだすことができた.この組成には,通常の酸化物ガラスでは必須となるネットワーク形成酸化物が含まれていない点が大きな特徴である.ただしガラス形成能は,予想に反して非常に大きく,無容器浮遊させていなくてもガラス化できた.このことから,ハイエントロピー化によるカクテル効果が,ガラス形成能を向上させたと考えることができる. 当初の研究計画には明示していなかったが,ガーネット組成をベースとしたハイエントロピー酸化物ガラスの探索も始めた.CaO-Sc2O3-SiO2系におけるガーネット組成のガラス化に成功した.Sc2O3はこれまでほとんどガラスには使われてこなかった成分なので,この系でのガラス化は興味深い.またこの組成も非常にガラス形成能が高かったことから,周辺の組成でもさらにガラス化できる組成が見つかると期待できる. Al2O3-SiO2二元系に対する添加成分として,ZrO2やMgOが有効であることがわかった.とくにZrO2添加は,弾性率の劇的な増大をもたらした.MgOについては,添加成分としてではなく,主成分としてとらえたほうが,ガラス形成能や物性の制御を考える上で有用であることがわかってきた.
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Strategy for Future Research Activity |
Al2O3-Ta2O5系,CaO-Sc2O3-SiO2ガーネット系,Al2O3-SiO2系で,それぞれ3成分系以上の多成分ガラスの合成に成功した.これらのガラスは高い硬度を有しているのはもちろんだが,それ以上にガラス形成能が格段に向上したことは特筆すべきである.さらなる大型化を目指すことも今後の研究の方向性として重要である.またこれらニューガラスの機械特性をさらに詳細に調べるとともに,破壊靱性が向上したガラスの実現を目指す. 機械特性については,微小硬度計によって得られる弾塑性変形比率が興味深い.我々が合成したニューガラスは,結晶アルミナと同程度の弾塑性変形比率を有していたことから,通常のネットワーク系ガラスとは変形機構が異なることが強く示唆される.ネットワーク系ガラスでは到達できない優れた機械特性の起源が,この実験結果に表れていると考えられる.現在分子動力学シミュレーションによって,信頼性の高い構造モデルの構築に取り組んでおり,ここから機械特性や変形機構に関する知見が得られると期待される.現時点でAl2O3-Ta2O5二元系に関しては,放射光XRDや中性子回折をよく再現する構造モデルを作製し,そこからヤング率を計算することができている.また,Al2O3-SiO2系では,NMRやXAFSから得られる局所構造分布と一致する構造モデルの作製に成功している.今後は多成分化したときの局所構造変化を詳細に調べる予定である.物性と構造の相関を探り,ニューガラスが示す特異な機械特性を理解することを試みる. これまでに得られた成果については現在論文にまとめているところであり,2020年度中のアクセプトを目指す.
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