2020 Fiscal Year Annual Research Report
分子再配向が制御するマンガンクラスターの酸素生成反応の理論的解明
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
20H05098
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 重彦 京都大学, 理学研究科, 教授 (70402758)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 光合成系 II / 分子シミュレーション / 酸化還元電位 / プロトン親和力 / 人工光合成アナログ錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、光光合成系 II(PSII)のマンガンクラスタ活性中心及び人工マンガンクラスタ錯体の酸化還元電位やプロトン親和力の高精度計算を行い、構造化学に加えてエネルギー論に基づいた酸素生成反応過程の解明を行う。計算には、我々が開発したハイブリッド法である QM/MM RWFE-SCF 法を用い、反応中心の正確な電子状態を記述する ab initio 量子化学計算とタンパク質環境の熱揺らぎによる大規模な再配向を記述する分子力場を用いた分子動力学計算を効率良く組み合わせる。本年度は以下の成果を得た。 1.PSII の S1 及び S2 状態の異なるプロトン化状態に対して、マンガンクラスタとタンパク質環境の間の相互作用解析を行い、プロトン化親和力や酸化還元電位の制御の分子機構を明らかにした。その結果、タンパク質の極性残基のクーロン相互作用のそれぞれは大きな寄与を与えているが、全体としては中性的な静電環境を与えている一方で、タンパク質表面を含む水・イオン環境の分子再配向が重要な寄与を与えていることを明らかにした。 2.モデル系のシトクロム c 及び PSII に対して、酸化還元電位に対するタンパク質環境の電子分極の効果を検討した。その結果、電子分極による無視できない寄与があることを明らかにした。 3.PSII の S3 状態の異なるプロトン化状態に対して、自由エネルギー構造最適化を行った。その結果、いくつかのプロトン化状態に対して自由エネルギー最適化構造を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、非経験的ハイブリッド量子化学計算法を用いて、PSII のマンガンクラスタ錯体のプロトン化状態の同定や酸化還元電位の計算に成功している。その結果は、これまでの理論計算とは大きく異るため、その原因について明らかにする必要があった。本研究の手法では、タンパク質全体のみならず、水・膜・イオン環境もすべて考慮し、さらにタンパク質熱ゆらぎによる分子再配向も取り入れている計算法であり、これまでのタンパク質の一部分のみを用いた計算や静的な計算による制限が取り除かれている。その結果、これまでの計算で考慮されていない、タンパク質表面部分の水・イオン環境を含めた分子再配向の重要性を見出し、本研究の計算結果の妥当性を明らかにすることに成功している。 更に、タンパク質環境の電子分極の大きな寄与についても明らかにした。酸化還元電位やプロトン化親和力の正確な計算に重要であり、新たな計算法の開発に着手している。また、S3 状態のモデリングに関しては、いくつかのプロトン化状態に対する自由エネルギー安定構造モデルを得ることができ、他のプロトン化状態の候補に関してもモデリングが進展している。一方、人工マンガンクラスタ錯体に関しては、人的リソースの問題により、若干進展が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの計算で、高精度の酸化還元電位とプロトン化親和力の計算には、タンパク質の分極効果を適切に取り扱う必要があることが分かった。そこで、分極力場を用いた補正計算法を開発し PSII に適用することにより、タンパク質分極の寄与を計算し、S1 及び S2 状態における最終的な自由エネルギープロファイルを決定する。 また、PSII に関しては、S3 状態の異なるプロトン化状態に関して、自由エネルギー構造最適化を行う。得られた最適化構造に対して、自由エネルギー計算を行うことにより、プロトン化状態の同定を行う。S3 状態生成ではプロトンの放出が起きる。そこで、プロトン放出前の一時的な状態に関しても自由エネルギー構造最適化を行い、プロトン放出の分子機構を明らかにする。 更に、人工マンガンクラスタ錯体に対して、同様の自由エネルギー構造最適化計算を行う。有機溶媒中の人工マンガンクラスタ錯体の状態のシミュレーション系に対して、自由エネルギー最適化計算を継続する。更に最適化構造を決定した後、その酸化還元電位の計算を行う。更に、酸素発生反応に必要となる基質水分子の配位構造を、少量の水分子を添加した混合溶媒系に対して QM/MM RWFE-SCF 計算を行うことにより明らかにする。また、その基質水分子を含めた系に関しても異なるプロトン化状態の酸化還元電位を計算し、酸素生成反応におけるプロトン放出機構を明らかにする。
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Research Products
(7 results)