2022 Fiscal Year Annual Research Report
対話知能ロボットにおけるプライバシー権と平等権の保障
Publicly Offered Research
Project Area | Studies on intelligent systems for dialogue toward the human-machine symbiotic society |
Project/Area Number |
22H04868
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
加藤 隆之 東洋大学, 法学部, 教授 (00364331)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | プライバシー権 / 平等権 / 個人情報保護 / 倫理 / アバター / わいせつ表現 / 表現の自由 / 法人格 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、主に対話知能ロボットのような自律型AIロボットを対象として、平等原則やプライバシー権などに関する法や倫理の主体適格性について、明らかにすることである。今年度は、まずその1年目であることから、文献を精読すること、及び、その成果を研究会で発表することを中心とした研究活動を行った。 研究会の発表としては、2022年度は2度海外で発表を行った。すなわち、①「Looking for an Obscenity Standard in the Cybernetic Avatar World」(Robophilosophy、ヘルシンキ大学)(2022年8月17日)、②「Privacy and AI-Far beyond Privacy Issues」(Understanding the Constitution of Japan: Comparison and Analysis、トリニティ・カレッジ・ダブリン)(2022年8月30日)の2回である。ヘルシンキ大学では、研究会とは別に、法人格に関する A Theory of Legal Personhood (Oxford University Press 2019)を出しているビサ・カーキ(Visa A.J. Kurki)教授と会い、議論を深めることができた。また、これまでのプライバシー権の基礎研究の成果として、『プライバシー権保障と個人情報保護の異同』(東洋大学出版会、2022年)を出版することができた。拙著では、イギリスのコモン・ローに、規範的な意味におけるプライバシー権の歴史的源流を見出し、アイルランドや日本の制度と比較することを通じて、現代的な個人情報保護の在り方を再検討しようとするものである。自律型AIにプライバシー権などに関する規範を遵守させることを検討するにあたっては、こうした基礎研究が不可欠である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献購読については、おおむね予定通り順調に進められている。アマゾンを利用することによって、洋書の購入が比較的容易になったからである。国内の文献も少しずつ増えているが、本研究の領域に関しては、西洋諸国を中心とした海外での議論が活発であるため、洋書の入手は不可欠である。 また、同様の理由から、国際的な学会に出席することも重要である。昨年度までは、コロナの影響で、それもままならなかったが、今年度に入り、ようやく海外出張が許されるようになった。その結果、今年度は、2回ほど海外の大学で主催された(トリニティでは共同開催)研究会で発表することができた。また、トリニティ・カレッジ・ダブリンでの研究会には、慶応義塾大学の横大道聡教授、獨協大学の岡田順太教授、北九州市立大学の山本健人准教授も参加したが、彼らやトリニティ側のオーガナイザーであるディビッド・ケニー教授とは、定期的に同様のワークショップを開催していくことで合意した。 さらに、本研究では、プライバシー権、平等権、表現の自由の基礎研究が不可欠であるが、そのうちのプライバシー権について、著書を出すことができたのは大きな成果であった。自律型AIロボットに対してプライバシー権や個人情報の保障をいかに確保するかが課題となっているが、その前提として、両者の概念の異同が明らかにされなければならない。その点を研究したものが、本著である。残りの2つのテーマについても、なるべく早く基礎的な研究を進めて、少しずつその成果を自律型AIロボットの進化がもたらす問題に反映させていければと考えている。 以上より、2022年度の研究の進捗状況はおおむね順調であったものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も、今年度と同様に、文献購読、研究会発表、論文発表という研究活動を継続したいと考えている。研究発表については、今年度2回海外で実施したので、今年度は2,3回程度国内で実施したいと考えている。その一環として、秋頃までに、AIと法をテーマとした研究会を発足させる予定である。既に、元個人情報保護委員会事務局長であり、現デジタル庁参与の其田真理氏、牛島総合法律事務所弁護士の影島広康氏と協力して企画の準備作業に入っている。また、研究成果としての論文の公表もできる限り多く行いたい。 今年度の文献購読において、2つの重要文献に接することができた。ひとつが、Eric Heinze, The Most Human Right (The MIT Press 2022)であり、もうひとつが、Luke Munn, Automation is A Myth (Stanford University Press 2022)である。前者は、従来の表現の自由の基本的な考え方に大きな転換をもたらすようなものであり、ロンドン大学クィーンズメリー校のハインズ教授によって書かれている。同教授とは、2021年にパラグアイで行われた比較法学会でお会いしたことがある。後者は、「オートメーション化が利益をもたらす」という点を強調する最近の風潮に警笛を鳴らすものである。オーストラリアのクィーンズランド大学のマン研究員によって書かれている。マン研究員は、他にもAI関係の著作を複数出している新進気鋭の研究者である。いずれも、本研究に関連するテーマについて、極めて重大な問題提起をしているものであるので、著者に現地で直接会って、議論を深める機会を設けたいと思う。
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