2022 Fiscal Year Annual Research Report
Slow地震活動を予測・定量化する新たな統計モデルの構築
Publicly Offered Research
Project Area | Science of Slow to Fast Earthquakes |
Project/Area Number |
22H05307
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 友章 京都大学, 防災研究所, 助教 (10909443)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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Keywords | スロー地震 / 地震活動統計モデル / 沈み込み帯 / 南海トラフ / 日本海溝 / 低周波地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、研究課題(A)「低周波地震(LFE)活動統計モデルの構築」に取り組み、研究課題(B)「新たな統計モデルに基づく異常なSlow地震活動の客観的な検出」にも着手した。 LFEの統計モデルには二つのアプローチが考えられる。一つは、Lengline et al. (2017)のアプローチで、過去のLFEが未来のLFEを誘発するというモデル化である。もう一つのアプローチは、LFEのイベント間時間分布を長期的な繰り返しと、短期的なクラスタリングに対応する複数の確率分布の和として表現する方法である(Ide & Nomura, 2022)。このアプローチでは、過去と未来のLFEに因果関係はない。これら2つのアプローチはこれまで比較されたことがなかった。そこで本研究は、2つのアプローチに基づく2つのモデルを作成し、それらを赤池情報量規準(Akaike, 1974)に基づき比較した。その結果、南海トラフのLFE活動(Kato & Nakagawa, 2020)に対しては、Ide & Nomura (2022)のアプローチが優れていることがわかった。つまり、南海トラフで発生する低周波地震同士に因果関係は認められなかった。また、Ide & Nomura (2022)型のモデルに、過去のLFEの活動履歴を組み込むとモデルが改善することもわかった。 さらに本研究は、異常なLFE活動の客観的な検出にも着手した。具体的にはNishikawa & Ide (2017)の手法に基づいて、モデルの予測をはるかに上回る高いLFE発生レートが観測された期間の特定を試みた。 上記の研究活動に加え、日本海溝でLFEの群発現象(微動)の網羅的検出も行い、令和5年度以降に統計解析に使用可能なスロー地震データを整備・増強した(Nishikawa et al., 2023)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、当初予定してた研究課題(A)「低周波地震活動統計(LFE)モデルの構築」を大きく進めることができた。本研究が、初めて実施した、Lengline et al. (2017)型モデルとIde & Nomura (2022)型モデルの比較は、過去のLFE活動と未来のLFE活動に因果関係が認められないことを明らかにした。これは、LFEの活動を予測する上でも、LFEの物理メカニズムを解明する上でも非常に重要な知見である。また、当初予定した通り研究課題(B)「新たな統計モデルに基づく異常なSlow地震活動の客観的な検出」にも着手できた。さらに、これらの成果を国際研究集会で発表することもできた。また、当初予定されていなかったものの、日本海溝で低周波地震活動の群発現象(微動)の網羅的検出にも取り組み、令和5年度以降に統計解析に使用可能なスロー地震データを整備・増強することができた(Nishikawa et al., 2023)。 その一方、研究課題(A)には、さらなる研究が必要な点があると考えている。それは、Ide & Nomura (2022)型モデルのさらなる改良である。具体的には、どのような形で、過去のLFE活動の履歴をモデルに組み込めば、モデルが大きく改善するのかより詳細に調査する必要がある。この点に関しては、令和5年度も引き続き取り組む。 以上の点を総合的に考慮し、本研究は「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、主に下記の研究課題(B)と(C)に取り組む方針である。 (B)新たな統計モデルに基づく異常な低周波地震(LFE)活動の客観的な検出:令和4年度の研究課題(A)で構築したLFE活動のモデルに基づき異常なLFE活動を客観的に検出する手法の開発・改良を行う。異常なFast地震活動をETASモデルに基づいて客観的に検出した過去の研究(Nishikawa & Ide, 2017)を参考にして、異常なLFE活動の客観的な検出を行い、その手法の改良にも取り組む。具体的には、検出に使用するパラメータ・閾値の適切な設定について検討する。令和4年度の研究課題(A)で作成したLFE活動統計モデルについても、過去のLFE活動の履歴の組み込み方に関して、さらなる改良加える。また、解析対象を日本海溝のLFEの群発活動(微動活動)にまで拡大することや、新たなスロー地震活動データを収集するために、南海トラフ周辺地域においてスロー地震観測を行うことも検討している。 (C)時空間モデルへの拡張:令和4年度の研究課題(A)で構築した新たなLFE活動統計モデルは、LFEの発生時刻の予測に特化したモデルであったが、(C)では、それを時空間モデルにまで拡張することを目指す。つまり、LFEの発生時刻のみならず、発生位置まで予測するモデルの構築に取り組む。その際、Fast地震活動の標準的な時空間統計モデルである時空間ETASモデル(Zhuang et al., 2002; Ogata, 2011)等を参考にする。構築した時空間モデルを、南海トラフ沿いのSlow地震観測データに適用し、Slow地震活動の時空間的な予測を試みる。 上記に加えて、研究課題(A)の成果を学術誌に公表するための論文執筆・改訂作業にも取り組む。
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Research Products
(4 results)