2012 Fiscal Year Annual Research Report
記憶改善効果をもつ特異なステロイド配糖体の開発と作用機構
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Biology using bioactive natural products as specific ligands: identification of molecular targets and regulation of bioactivity |
Project/Area Number |
24102514
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小鹿 一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50152492)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 神経変性疾患 / 記憶改善 / ステロイド / シグナル伝達 / 有機合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
オニヒトデから発見したステロイド配糖体acanthasteroside B3はPC12細胞に対する神経様突起伸長作用および老化マウスに対する記憶改善効果を示す。したがって神経変性疾患の治療薬への応用が期待できるが、(1)分子標的や作用機構がいまだ不明、(2)天然からの供給が困難、という課題を抱えている。これら課題を解決し応用への道を拓くため、今年度は以下の2点について研究を行った。 (1)突起伸長作用の機構の解析: PC12細胞に微量(1 ng/ml)の神経成長因子(NGF)を投与しても弱い神経突起伸長作用しか示さないが、acanthasteroside B3を共存させると数倍の活性上昇が見られた。このNGF増強活性の作用機構を解析するため、NGFのシグナル伝達に関与するMAPキナーゼ経路タンパク質ERK1/2, MEKのリン酸化をウエスタンブロットで解析した。その結果、両タンパク質のリン酸化が増強されることがわかった。さらに、最上流のNGF受容体TrkAを調べたところ、リン酸化の増強が見られたことから、このステロイド配糖体はNGFによる受容体活性化を増強すると考えられる。 (2)天然ステロイド配糖体の類縁体の合成: 天然ステロイド配糖体の供給は、材料入手の不安定性、危険性、煩雑な精製作業など困難が伴う。そこで応用化を視野に、構造活性相関に則した単純化類縁体の合成を行なった。まず類縁体1を、安価に入手できる胆汁酸から16段階で合成した。類縁体1は天然物と同様にNGF増強効果を示し、さらに老化マウスの記憶低下を一定レベルで回復させた。また、体内動態を調べたところ、皮下注射で血液中へは移行したが、天然物のように脳内への移行は見られなかった。これは、類縁体1の難溶性によると考えられるため、良好な溶解性をもつ類縁体の合成を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
作用機構の解析では、NGFシグナル伝達経路の増強である、との結論を導くことができた。また、類縁体合成では天然物より単純化された合成化合物でも突起伸長作用、マウス記憶改善効果が見られ、概ね順調に進行している。ただし、溶解性が低いという課題については取りかかったばかりである。
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Strategy for Future Research Activity |
作用機構の解析では、NGF-受容体相互作用に対するステロイド配糖体の効果を、フォスファターゼ阻害の可能性などを念頭に解明する。類縁体合成では、より天然物に構造が近く、かつ容易に合成可能な新類縁体の合成を、安価なエルゴステロールから合成する。
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