2014 Fiscal Year Annual Research Report
表面水素の分極・荷電状態
Publicly Offered Research
Project Area | Frontier of Materials, Life and Elementary Particle Science Explored by Ultra Slow Muon Microscope |
Project/Area Number |
26108705
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 表面 / 水素 / 荷電状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミュオンは質量が水素の1/9の粒子で,物質中で水素の同位体として振る舞う.本学術領域で開発される超低速ミュオンを利用し,入射ミュオンのエネルギーを変化させることにより,プローブする深さを表面からサブサーフェイス領域で制御し,それぞれの深さでの水素の電子状態を解析するのが本研究の目的である.これまでの研究により,アモルファス氷でMuが形成されることを明らかにした.今年度は,詳細な横磁場依存性,温度依存性の実験を行った. J-ParcD1ビームラインの真空槽を改良し試料観察用カメラを取り付け,さらに真空脱気処理した超純水の水蒸気をフローコントローラでフローを制御することで,厚みを制御したアモルファス氷を作製した.32Kで試料を作成し,作成中に20GでμSRの非対称度をその場測定した.非対称度は試料成長とともに徐々に減少し,試料厚さ約1.6mmで飽和することを明らかにした.非対称度の減少は,アモルファス氷でミュオニウムが形成されていることを示す.この試料に対して32K,横磁場2.8GでμSR測定を行ったところ,Muの回転信号は観測されないことが判明した.零磁場で緩和測定を行ったところ,緩和に2成分存在することが判明した.続いて,試料を232Kにアニールした.140K以上でアモルファス氷は結晶へと相変態する.この試料に対して32K,横磁場2.8GでμSR測定を行ったところ,ミュオニウム回転が観測された.また零磁場では,同様に2成分の緩和が観測されたが,32Kの試料とはスペクトル形状が異なることが明らかとなった.結晶氷中ではミュオニウムの緩和が遅いのに対して,アモルファス氷中では回転を観測できないほど早く緩和していると考察した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
J-Parcのビームライン真空槽に氷作製装置を組みこみ,試料観察用カメラを取り付けることで厚さを制御してアモルファス氷試料を作製することに成功した.また水蒸気のフローを制御することで,試料作製中の温度も安定させることに成功した.当初計画した試料作製は予定通り行うことができた.この試料について,当初予定していたμSR実験を行った.まず,32Kで実験を行ったところ,当初期待したMuの回転による信号が観測されなかった.ビームタイム中に急きょ予定を変更し,20Gおよび零磁場でのμSR測定を追加して行い,形成されたミュオニウムが早く緩和していることを明らかにできた.ビームタイム中に共同研究者と適切に議論をすることで可能になったことであり,予想以上の成果につながったと考えている.232Kにアニールして結晶化させた試料では,当初考えたMuによる回転が観測された.予定した実験を行うことができた.詳細な解析はこれから行うが,当初の目的は十分達成された.超低速ミュオンの実験が可能になれば,表面・界面の影響を調べることができ,最終目的も達成できる見込みがたった.超低速ミュオン実験に向けて,金属および遷移金属酸化物に関する試料の調整と水素吸着評価を行ってきており,これまでにPd金属,AuPd,TiO2の評価を終えている.試料については,目的を達成しており,今後超低速ミュオンを用いて調べることで,表面における水素の荷電状態を直接測定できると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
試料温度を制御することでアモルファス氷と結晶氷を準備し,この2つの試料についてμSR実験を行った.その結果,いずれの試料でもミュオニウムが形成されるが,結晶氷に比べてアモルファス氷ではミュオニウムの寿命が短いことが判明した.今後は,実験データの詳細な解析を進めることで,氷中のミュオニウム状態およびミュオニウム緩和の機構を解明することが課題である.そのために,零磁場の緩和データに着目し,緩和の解析を行う.緩和を表現する関数としてKubo-Toyabe型あるいは指数関数型を仮定し実験データへのあてはめを検討する.得られた寿命から,緩和の物理的機構を考察する.また,超低速ミュオンの実験が可能になったところで,入射ビームのエネルギー依存性を測定することで,試料表面・界面の影響を調べる. 金属および金属酸化物試料については,超低速μSR実験に先立ち,表面ミュオンを利用してμSR実験を行う.第一番目の試料としてはTiO2を用いる.TiO2にはルチル型とアナターゼ型が存在する.ルチル型については既に文献が存在するがアナターゼ型はデータが存在しない.そこでアナターゼ型に注目し,ルチル型との比較検討を行う.試料処理法はこれまでの研究で確立している.4-300Kの間で温度を変化させ,さらに横磁場20Gおよび2.8GでのμSR測定を行う.アモルファス氷同様,超低速ミュオンの実験が可能になったところで,入射ビームのエネルギー依存性を測定することで,試料表面・界面の影響を調べる.
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Research Products
(8 results)