重症急性呼吸器症候群(SARS)は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)感染によって引き起こされる過剰な免疫応答を原因とした重篤な急性肺炎であるが、如何にして過剰な免疫応答が誘導されているのかについて、その機序は不明な点も多い。本研究では、SARS-CoV感染により肺炎を発症する老齢BALB/cマウスを用いて、ウイルス排除に関わる免疫応答と肺炎発症に至る機序との関係を解析し、SARS-CoV感染に対する免疫応答を介した肺炎の重症化機序の解明を目的とした。 本年度は、まず、野生型マウスであるBALB/cマウス(7-8週齢、>6ヶ月齢)及び免疫不全マウスであるSCIDマウス(7-9週齢)へのSARSコロナウイルス感染による肺中ウイルス量の経日変化を解析した。その結果、BALB/cマウスでは、いずれの週齢においても感染後9日までには検出限界以下にまで肺中ウイルス量が減少していたのに対して、SCIDマウスでは感染21日後においてもウイルスは排除されず、持続感染化していることが判明した。更に、興味深いことに、重篤な肺炎を呈することなく、持続感染化しており、SARSの肺炎の重症化には獲得免疫応答の関与が強く示唆された。そこで、SCIDマウスへ老齢(>6ヶ月齢)BALB/cマウスの脾細胞を移入した後に、SARS-CoVを感染させたところ、BALB/cマウスと同様に感染9日後までに肺中ウイルス量は、検出限界以下にまで減少していた。しかしながら、移入した免疫担当細胞は、老齢マウス由来であるにも関わらず、顕著な肺炎像は認められなかった。以上の結果より、老齢マウスにおける体細胞からのサイトカイン等の液性因子の産生量が肺炎発症には関与している可能性が示唆されたことから、現在、種々の液性因子の産生量の解析を進めている。
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