研究概要 |
ホール型推進機は内部にプラズマを発生させ,イオンを電気的に加速,排出することで推進力を得る電気推進機のひとつであり,他の電気推進機であるイオンエンジンなどに比べ,構造が単純なため小型化が可能であること,さほど高電圧を使用しないため電源を軽量化できること,イオンによる損耗を受けにくいため長寿命であることなどが長所としてあげられ,次世代の人工衛星のエンジンとして有望である.一方で,推進機内部でプラズマを生成する際に,その電離不安定性のため,放電電流が振動を引き起こし,これが発生する作動領域で作動させることは電源への負荷等より好ましくない.一般に,放電安定化のためには中空形状の陽極を用いるとよいとされるが,そのメカニズムはこれまで明らかにされてこなかった.そこで,本研究では粒子法を用いた数値解析コードを開発し,ホール型推進機の中空陽極内部の観測を行い,その知見をもとに,作動安定化を実現する陽極形状を見出すことにした. 平成20年度は,年次計画では19年度までに得られた知見をもとに,最適と思われる陽極形状を設計・製作する予定であったが,受入研究機関の耐震工事により実験設備が半年しか使用できないため,予定を変更し,数値解析の結果をレーザー誘起蛍光法を用いて実験的に実証すること及び,数値解析結果の理論的な解釈によって,より一般性の高い安定化の指針を得ることとした.レーザー誘起蛍光法による推進機内部のプラズマ診断の結果,数値解析で得られた通り,安定作動をする際は,陽極内部でプラズマ生成量が大きく,陽極表面には電子シースができていることが,また,不安定作動の際には,陽極内部プラズマ生成量が小さく,表面にはイオンシースが出現することが確かめられた.また,理論的な解釈から,陽極内部にて,一度プラズマが生成し,イオンが陽極に適度に当たる構造とすると,安定作動となることが明らかになった.
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