近年、高齢化社会の進展とともにがんの罹患率ならびに死亡率は益々増加傾向にある。多発性骨髄腫(multiple myeloma)も高齢化社会の到来とともに増加傾向が認められてきており、新規治療薬の臨床開発が進み治療成績も向上しつつあるが、満足できるとは言い難い。そこで、従来の治療法とはコンセプトが全く異なり、かつ全患者に施行可能な新しい治療法の開発が期待されている。本研究では、多発性骨髄腫の克服に向けた中核となる新規治療法の開発を目指し、ヒトCD269特異的キメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞を作製して担がんマウスの治療実験行い、その治療有効性を検証した。 まずヒトCD269特異的抗体を産生するハイブリドーマを作製した。この抗体の遺伝子配列情報を解析して、ヒトCD269特異的CARを作製した。このCARは、ヒトCD28とCD3ζの細胞シグナルドメインを付加したいわゆる第二世代型CARと呼ばれるものである。このCARを発現させた健常者由来のT細胞は、骨髄腫細胞を含むCD269を発現する細胞に対して細胞傷害活性を示した。また、骨髄腫モデルマウスにこのCAR-T細胞を投与すると、骨髄腫細胞が生着している骨髄にCAR-T細胞は集積し、CAR-T細胞の抗原反応特異的な活性化と増殖が急速に起こり、骨髄腫が消失した。また、これらの現象は骨髄腫患者由来のT細胞を用いた実験でも同様に観察された。 以上の結果から、ヒトCD269特異的CAR発現T細胞を用いた治療法は、現行の治療法に対して抵抗性を示す骨髄腫に対して新たな治療法と成りうると考えられる。
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