Project/Area Number |
20H04094
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 59030:Physical education, and physical and health education-related
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
田中 彰吾 東海大学, 文化社会学部, 教授 (40408018)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮原 克典 北海道大学, 人間知・脳・AI研究教育センター, 特任講師 (00772047)
浅井 智久 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 主任研究員 (50712014)
今泉 修 お茶の水女子大学, 人間発達教育科学研究所, 准教授 (60779453)
村田 憲郎 東海大学, 文学部, 教授 (80514976)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥11,310,000 (Direct Cost: ¥8,700,000、Indirect Cost: ¥2,610,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,990,000 (Direct Cost: ¥2,300,000、Indirect Cost: ¥690,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,730,000 (Direct Cost: ¥2,100,000、Indirect Cost: ¥630,000)
Fiscal Year 2021: ¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
Fiscal Year 2020: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
|
Keywords | 人間科学 / 身体性 / 身体化された自己 / ミニマル・セルフ / ナラティヴ・セルフ / ナラティブ・セルフ / 身体イメージ / 身体図式 / 自己イメージ / 習慣 |
Outline of Research at the Start |
本研究は「自己」について解明することを目的としている。脳神経科学の発展を受けて、2000年ごろから「自己」は科学的研究の対象になり、各種の知見が蓄積されてきた。ただし、従来の主要な研究は、行動実験と脳計測の組み合わせで、自己が成立する最小の条件を探求する「ミニマル・セルフ(最小の自己)」に焦点を当てたものだった。本研究では、実験科学的研究の地平をさらに拡大し、記憶・時間性・物語の次元を含む「ナラティヴ・セルフ(物語的自己)」を対象とする。実験心理学、哲学、精神病理学のアプローチを多角的に組み合わせ、物語的自己の理論モデルを構想する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、脳-身体-環境の相互作用から創発する現象として自己をとらえる「身体化された自己」の概念のもとで、ナラティヴ・セルフ(物語的自己)について、将来の実証科学的研究を推進する理論モデルを構想することにある。従来、身体性にもとづく自己の科学的研究はミニマル・セルフ(最小自己)の哲学的理論をもとに進められてきたが、この概念は、自己経験が時間的広がりのもとで物語として編成されていく過程への着目を欠いている。そこで本研究では、身体性への着目を残すことで従来の科学的な自己研究との連続性を保ちながら、現象学的哲学に依拠してナラティヴ・セルフの理論モデルを新たに構想することを目指している。 2022年度は4年計画の3年目であり、昨年度に引き続き、主に次の点で身体性とナラティヴ・セルフの連続性について理解を深め、洞察を得た。(a)ナラティヴ・セルフを支える自己イメージの根底に存在する身体イメージと、それが自己物語を統合するうえで持つスキーマとしての機能。(b)日常のさまざまな経験のうち、明瞭な所有感または主体感を伴う種類のものが、優先的に自伝的記憶を形成している可能性。(c)自己物語と整合性のある身体化された習慣が、ナラティヴ・セルフに現実感を与えていること。(d)身体化された人格、とくにジェンダーや人種といった属性を持つ人格が構築される過程での時間性と他者性の役割。以上それぞれの論点について、代表者の田中と分担者4名との間で大小さまざまな研究会を開催しながら議論を深めた。これらの議論の成果は、昨年度の論文および発表の業績に反映されている。 以上の通り、身体性を媒介として、ミニマル・セルフとナラティヴ・セルフを結ぶ個別の論点を多く見出せたことが2022年度の主な研究成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画は理論を中心とする研究課題であり、パンデミックによる大きな影響は受けていないため、「おおむね順調」を選択した。 代表者の田中は、2022年3月に単著『自己と他者:身体性のパースペクティヴから』(東京大学出版会)を、2022年8月には共著『認知科学講座1:こころと身体』(嶋田総太郎編・東京大学出版会)で「身体性に基づいた人間科学に向かって」を刊行しており、本科研費に関連する成果をある程度まとまって発表している。以下、本計画に関連づけてこれらの成果の概要を報告する。 単著の『自己と他者』は、生態心理学者ギブソンと現象学者メルロ=ポンティの理論的枠組みを受け継ぎつつ、「身体化された自己」と他者の相互作用の中で生じる諸現象を記述している。特に最終章では、ナラティヴ・セルフの身体的基盤について、発達過程を取り上げつつ論じた。私見では、生後9ヶ月頃に現れる共同注意の能力、2歳頃盛んになる「ふり遊び」に含まれる想像力、同じく2歳前後に形成される身体イメージ、言語習得後に可能になる反実仮想の能力、これらすべてが「他者を相手にして自己を物語る」という行為の基礎を構成している。以上を踏まえると、ナラティヴ・セルフは決して恣意的に書き換え可能な物語的自己ではなく、身体的基盤から徐々に離陸しつつ発達すると見るべきである。 共著の『認知科学講座』では、ナラティヴ・セルフの基盤を「身体イメージ」の観点に沿って論じた。「プロテウス効果」として知られる通り、ある特性を備えたアバターに同一化する経験は、自己をその特性に沿って上書きする効果を持つ。ここからすると、既存の身体イメージを反映した自己物語を人は生きると同時に、理想化された身体イメージに同一化することで自己物語を書き換えようとする傾向を持つと言える。身体イメージと自己物語の双方向の循環的関係を理解することが、今後の研究の鍵になると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、脳-身体-環境の相互作用から創発する現象として自己をとらえる「身体化された自己」の概念のもとで、ナラティヴ・セルフ(物語的自己)について、将来の実証科学的研究を推進する理論モデルを構想することにある。今年度は4年計画の最終年度に当たる。昨年度までの研究成果を包括的に見直し、来年度以降の新たな研究計画の策定に向けて研究を進めることにしたい。 基本的には、「身体化された自己」をより重層的に理解することを目標とする。本計画では「自己」という現象の全体をミニマル・セルフとナラティヴ・セルフに大別し、身体性を媒介として両者を結ぶ理論モデルを構想するという方略を採用した。しかし、「身体化された自己」の概念はもともと、「脳-身体-環境」の相互作用から創発する現象として自己を捉える見方であり、この観点に忠実に自己を捉えるなら、ミニマルとナラティヴという区別はいわば粗雑であり、むしろ「身体化された自己」についての理解をより洗練させる必要がある。新たな研究計画と関連して、今年度は次の二点について考察したい。 第一に、「自己」をよりよく理解するうえで、相互作用サイクルの中で「脳」が果たしている役割を考察する必要がある。本年度は、生態心理学者ギブソンが残している「共鳴(レゾナンス)」の観点を手がかりに、身体と環境の相互作用という文脈の中で脳が果たしている役割を再考し、それと「身体化された自己」との関係を考え直す。 第二に、自己物語が生成してくる過程で「言語」が果たしている役割をより明確に特定する必要がある。発話と思考は反省的意識をもたらし、他者との対話によって促進される語りは自伝的記憶を整理して物語へと昇華する。メルロ=ポンティの言語論を手がかりとして、この点についての理論的整理を試みたい。
|