2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Establishing a new paradigm of social/human sciences based on rerational studies: in order to overcome contemporary global crisis |
Project/Area Number |
16H06549
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
酒井 啓子 千葉大学, 法政経学部, 教授 (40401442)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 薫 東京外国語大学, アジアアフリカ言語文化研究所, 研究員 (10431967)
帯谷 知可 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (30233612)
福田 宏 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (60312336)
佐川 徹 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (70613579)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | アイデンティティ / シンボル / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
計画研究B01では、グローバル社会のさまざまな地域における、共同体の社会意識、社会的紐帯に関わる調査・研究を行うことを主眼に置いている。 2016年度は、特に難民、移民社会における紐帯意識や多文化共生を取り上げ、名古屋で開催された「国際メトロポリス会議」で研究協力者とともにワークショップを企画し、トルコやレバノン、スーダンにおけるシリア難民の現状分析や、レバノンにおけるパレスチナ難民、欧州・日本における移民・難民の受け入れ状況とその背景にある思想について、報告を行った。 また、難民社会に対する医療・看護の側面から、上記ワークショップで大阪赤十字病院のレバノンでの看護活動を報告したが、その後千葉大学看護学研究科との協力のもと、難民支援ワークショップを連続で開催し、医療と難民研究をつなぐ試みを行った。その結果として1-2月に在シリアUNDP、在アンマンUNICEF職員を招聘し、研究者のみならず実務家との間で活発な意見交換、情報交換を行うとともに、計画研究B02や領域外のプロジェクトと共催で、ワークショップを開催した。 一方で計画研究B01では、映画や文学、歴史的記憶などの非言語的シンボルが表す社会的紐帯に光を当てることから、「アラブの春」を契機として新たな方向性を模索する現代エジプトの映像芸術を取り上げ、新進気鋭の映画監督を招聘した。またトルコより文学研究者を招聘して現在トルコ文学に関するシンポジウムを開催した。 シンボルやモノによって表象される社会意識という意味では、イスラーム世界において女性のヴェールは重要な研究テーマである。社会学、歴史学の手法に基づき、中央アジアと中東の事例について報告を行うワークショップを、2月に開催した。そのための準備として、分担者がスロバキア(11月)、ウズベキスタン(12-1月)での現地調査を行い、史資料の収集にあたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画研究B01では、11月に一回計画研究内の打ち合わせを京都大学で実施したが、分担者が関西圏、関東圏で分かれることから、その後はメールでの議論を通じて意見交換を行った。 領域内で本計画研究は、最もベースとなる社会意識や紐帯意識を取り上げる分野であることから、シンボル分析、表象研究が重要であることが再確認され、非言語的シンボル研究として、2017年度にはスポーツとナショナリズムを取り上げることで合意がなされた。また中央アジアを主たる対象として、ジェンダー研究が進められているが、この視点をさらに中東や他の地域に広げた地域横断的な研究に発展させることの必要性が指摘された。そのため、2017年度からは、中東におけるジェンダー研究者を加えて、さらに発展させることとした。また社会心理学的観点からの研究を加えるため、新たに公共学の専門家を分担者とすることとした。 一方で、2016年には看護学系の研究者を交えて移民・難民問題に関するセミナーを連続して実施してきたが、移民・難民研究は一計画研究の枠で行うには大きすぎるテーマであることから、2017年以降は、移民・難民問題を扱う研究ネットワークを計画研究横断的に設置し、プロジェクトとして拡大発展されていることが望ましいと判断した。 分担者の個別の調査研究活動については、それぞれの研究テーマに基づき現地での調査研究を順調に進めている。今後は、これらの研究成果を計画研究内で共有し、発展させる必要があることで合意した。
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Strategy for Future Research Activity |
本新領域では、関係性学の理論的構築の必要性が指摘されている。その意味で、本計画研究は、定性分析を主とする研究が中心だが、そうした定性分析からいかに理論的枠組みの提示が可能かが、本計画研究の最大の課題である。 そこで、上記の進捗状況を踏まえて、2017年には、文化とナショナリズムという共通テーマを軸に、さらに細分化されたテーマとしてヴェールなどの服飾に代表される表象文化、スポーツに代表される身体性の問題、映画やイラストなどの映像文化を取り上げた研究集会を主催し、社会意識の定性分析の手法の一層のブラッシュアップを模索する。ジェンダー研究については、中央アジアを中心に研究会を実施しているが、これに新たに中東での事例を加えるために分担者を増やし、より広くイスラーム世界全体におけるヴェールとジェンダーに関する包括的な研究会に発展させる。 一方で、定性分析の質を高めるため、より綿密な現地調査を引き続き実施する必要がある。上記で指摘した2017年の共通のテーマである「移民・難民・多文化共生」研究について、本計画研究では、移民、難民社会の持つ社会関係に力点を置き、人の移動が発生する原因となる社会経済的環境や心理状態を調査するフィールド調査を実施する。そこでは、人が移動を余儀なくされる背景にある「脅威」認識をとらえ、対立や紛争、暴力的行為を惹起する心理的要因に光を当てた研究を、講師などを招きながら進めていく。特に難民の心理、感情を扱う文学作品を分析対象とするなど、定量分析では把握できない分野での分析手法の開拓を進める。
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