2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Establishing a new paradigm of social/human sciences based on rerational studies: in order to overcome contemporary global crisis |
Project/Area Number |
16H06549
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
酒井 啓子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (40401442)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 薫 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 講師 (10431967)
後藤 絵美 東京大学, 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク, 特任准教授 (10633050)
帯谷 知可 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (30233612)
小林 正弥 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (60186773)
福田 宏 成城大学, 法学部, 准教授 (60312336)
佐川 徹 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (70613579)
宮地 隆廣 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80580745)
|
Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
Keywords | アイデンティティ / シンボル / ナショナリズム / ネットワーク / 共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
R1年度は「映像、音楽、服装など非言語的な表象に現れる文化的、政治的、歴史的意味の共有と差異の地域間比較」の点に力点を置き、「音楽とグローバル関係学」シンポジウムを、福田、後藤、山本が中心となって11月10日に開催し、中東におけるラップ、東欧におけるロック、ブラジルの歌謡祭の歴史を取り上げたほか、君が代をはじめとする各種国歌の位置づけと意味を論じた。また帯谷、後藤を中心に「装いと規範」ワークショップを前年度に引き続き京都大学にて2月10日に実施し、服装に象徴されるナショナルな要素とトランスナショナルな要素を、学生服やサリーを事例として取り上げて分析した。また佐川は、エチオピア西南部の農牧民社会におけるフィールドワークを引き続き実施した。 これらの研究事業の成果を領域全体で7巻にわたる叢書シリーズとして出版するため、福田・後藤を編集責任者として第5巻「みえない関係性」をみせる」を刊行することを決定、上記二人に加えて分担者の帯谷、山本が同巻でそれぞれ一章を執筆した。また同シリーズの第7巻「ローカルと世界を結ぶ」は計画研究B03との共同編集で、酒井、佐川がそれぞれ章を執筆した。さらに小林は、その研究内容から同シリーズ第3巻で一章を担当した。計画研究B01では成果報告書としての叢書とりまとめに最大の力点を置き、各巻編集委員会の形で研究報告会を3回ほど実施した。 R2年に入ると新型コロナウィルス蔓延のため予定していた招聘、海外調査を延期、繰越せざるを得なくなったが、R2年度も事態が改善されなかったことから、招聘予定だったサマル・ヤズベク氏とはオンラインでセミナーを実施、討議内容を文字起こしして出版した。同様に、招聘・ワークショップ実施予定だったバグダード大学との間では、酒井がオンラインでの講演を実施したほか、イラクでの社会運動実態について現地研究者とオンラインでの意見交換を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R1年中は、上述した複数分担者の共同シンポの他、個別にさまざまな国際ワークショップやシンポジウムを実施した。特に5月、10月に山本を中心にシリア情勢に関するシンポジウムを、シリア出身の映画監督を招聘し映画を上映する形で実施した。また9月に東洋文化研究所にて後藤が実施した「マイノリティとして生きる ムスリムとアイデンティティ」では在米の写真家を招聘し、マイノリティとしてのムスリムの在り方について、連続のワークショップと写真展を開催した。各分担者はそれぞれが専門とする地域(佐川はエチオピア、後藤はエジプト、帯谷は中央アジア、酒井はレバノン)でフィールド調査を行い、担当地域の社会規範とアイデンティティの変容に関する調査・資料収集を行った。 こうした成果をもとに、研究期間内に研究成果報告書を叢書シリーズとして出版するため、編集責任者として福田、後藤を選び、10月以降計画研究代表の酒井を含め月一回の編集企画会議を実施した。 R2年にはイラク・バグダード大学からの研究者招聘とシリア人ジャーナリストのサマル・ヤズベク氏の招聘、および酒井のレバノン向け社会運動調査を実施する予定であったが、いずれも新型コロナウィルスの感染拡大により海外渡航ができなくなったことから、これを翌年度に繰越し、状況が好転して実施できることを待ったが実現せず、オンライン会議に切り替えてそれぞれ成果を得た。対面調査が実施できなかったことは大きな難点であったが、むしろオンラインでの意見交換の機会が増えたことで、イラク人作家のアフマド・サアダーウィへのインタビューを実施したり、イラク社会運動研究の第一人者ザフラ・アリーを交えてイラク国内の研究者と多言語でのセミナーを実施するなど、積極的な研究交流が実施できたことは、不幸中の幸いである。
|
Strategy for Future Research Activity |
R2年度は引き続き、以下の点を中心に共同研究を進め、期間終了後も資金を繰越して現在も研究を継続している。 (1)「音」についての比較ワークショップの開催(10月ないし11月) 特に「音楽」というシンボルを取り上げ、それが表象するナショナル/トランスナショナル/反ナショナル性に着目した。ワークショップには、バルカン音楽専門の山崎信一氏(明治大学)や『ポーランド国歌と近代史』の著者梶さやか氏(岩手大学)、元はスコットランド民謡でありながら北米の賛美歌経由で日本に伝わった「蛍の光」について辻田真佐憲氏などを招聘し、下記「グローバル関係学」叢書の第5巻に寄稿いただいている。 (2) 計画研究横断の「パーセプション」研究プロジェクトを通じて、他の計画研究や公募研究者とも研究上の連携を図り、とりわけ公募研究のうちB01に連携可能として申請された池田氏のレバノン・キリスト教徒マイノリティに関する個別研究との相互交流を活かしている。そこでは、「グローバル関係学」学理の中核となる認識と行為主体の相互作用について、非制度的で計量化できない分析材料をいかに扱うか、エスノグラフィックな手法も含めてさまざまな方法論の模索を行い、「グローバル関係学」叢書第一巻に寄稿いただいた。さらには、帯谷が主催する連続ワークショップ「装いと規範」もR2年度、3年度と継続する予定である。 (3) 研究期間5年目には岩波書店から「グローバル関係学」叢書を刊行し、本計画研究ではシンボルとしての文化(スポーツ、革命/社会運動、装い)と「音楽」を合わせて一冊の研究書にまとめた。さらには「食文化」についての共同研究も進行中であり、刊行済み叢書に追加して食文化の比較研究を行う予定である。 コロナ禍では海外調査の実施が困難であるが、他方オンラインでのセミナー開催は準備も簡便であり、一層多様なテーマで意見交換と成果発信を進めていく。
|