2019 Fiscal Year Annual Research Report
移行期正義論・紛争解決学を応用した東アジア歴史認識問題解決の思想基盤構築
Project Area | Creation of the study of reconciliation |
Project/Area Number |
17H06336
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
梅森 直之 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (80213502)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 聡明 日本大学, 法学部, 准教授 (00514499)
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
上杉 勇司 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (20403610)
松谷 基和 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (20548234)
野尻 英一 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (30308233)
齋藤 純一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60205648)
最上 敏樹 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (70138155)
土佐 弘之 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (70180148)
澤井 啓一 恵泉女学園大学, 人文学部, 名誉教授 (50154141)
小山 淑子 早稲田大学, 留学センター, 准教授(任期付) (50800827)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 政治思想 / グローバルヒストリー / 紛争解決学 / 記憶研究 / 国際法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトでは、ⅰ)欧米発の紛争解決学や平和学の成果に学びつつ、儒教や仏教などのアジア的な宗教的 理念と紛争・和解との関連を思想的に探求し、あわせて東アジア型近世秩序から近代的な国際法体系への移行の 意味を理論的に検討することで、東アジア型「和解学」の思想的・理論的基礎を確立する、ⅱ)現在世界的に和 解推進の基準となっている移行期正義概念を批判的に検討し、移行期正義の東アジアにおける適用可能性をネー ションの形成と展開の歴史とともに探究することで、移行期正義の東アジア・モデルを創造する、ⅲ)実証的な 歴史学の方法論では対処しきれない記憶の噴出という現在の東アジアの歴史認識問題を理論的に検証し、記憶と 感情の多層的次元を解明する新しい歴史の基礎理論を構築する、ことを目的に共同研究を推進した。 今年度は、研究成果発信を主たる目標とし研究活動を進めた。その主たる成果は、以下の通りである。 1 本研究プロジェクトのメンバーを中心に、ワークショップ、シンポジウムを継続的に実施した。その成果の一部は、和解学叢書第1巻『和解学の試み――記憶・感情・価値』(2021年7月に出版)の巻頭論文である梅森直之「方法としての「和解学」─紛争解決学の東アジア的基礎 」に示されている。 2 和解学に関心を有する学者とのグローバルなネットワーク作りが進展した。その成果として、2020年度に国際和解学会(International Association for Reconciliation Studies)が発足し、2021年度には、その第二回世界大会を早稲田大学で開催することとなった。 3 本研究グループのメンバーが、研究成果のとりまとめに向けた活動を行った。その成果として、2022年の夏に、本研究グループのメンバーによる論文集の刊行が実現することになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際的な共同研究のネットワークづくりという点では、当初の予定以上の進展があった。多くの国際シンポジウムを主催または共催することができた。2019年には、和解学に関心を有するグローバルな研究者のネットワークとして国際和解学会が発足したが、本研究グループはその中核的な組織としてそれに参加した。そしてその活動が、2020年のイエナでの国際和解学会の創立大会への参加、2021年の東京での第2回大会でのパネル発表を通じた成果報告へとつながった。 共同研究推進と成果発表のためのインフラ整備が進んだ。早稲田大学があらたに立ち上げたグローバルアジア研究センターと共同し、研究をすすめていく体制が整ったことにより、共同研究室の確保や、独自のWEBページを使った情報発信、定例ワークショップの開催を積極的に行うことができた。 グローバルアジア研究センターと共同で、若手研究者を対象に、海外からの招聘講師を中心に定期的にセミナーやワークショップを開催する体制を整え、その概要をWEBを通じて発信した。 研究成果の発信に関しては、和解学に関するこれまでの研究を集大成した和解学叢書の刊行にむけて準備を進めた。その成果は、その総論にあたる第1巻の『和解学の試み――記憶・感情・価値』においてその一部が公開されている。今後は、本研究グループ独自の研究成果の取りまとめとして、2022年中に、論文集を公刊する準備が整っている。 また、和解を主題とする海外の注目すべき業績を翻訳出版するプロジェクトも進展した。その成果として、Akiko Takenaka Yasukuni Shrine の日本語訳の出版が2022年夏に予定されている。
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Strategy for Future Research Activity |
和解学という学問領域を創成するこれまでの研究で、いくつかの積み残した理論的・思想的課題も明らかとなった。今後は、これまでの和解学の成果を再検討し、1「ジェンダー」と「環境」をキーワードに、和解をめぐる学術研究に新しい理論的地平をひらき、2 和解学を推進する国際共同研究体制を拡大強化し、3 和解学の実践を導くファシリテーションを、コンテンツと教授法の両面から体系化することをめざす。 とりわけ文化研究、ジェンダー論、環境、ファシリテーションという4つの視座から、和解という問題・現象を総合的・体系的に分析していくことが求められる。またその成果を、アジアを中心とするグローバルな研究者のネットワークを通じて発信することも重要である。その研究成果の発信の媒体としては、1 国際和解学会年次大会におけるパネル発表、2 論文集や日本語版資料集の出版と公開、3 ファシリテーションに特化した教育カリキュラムの開発と実践などの活動を中心に進めていく。 本研究を構想した時期から現在に至るまで、、国際的な紛争のあり方に関しても大きな変化があった。本研究を構想するにあたり、主要な紛争として念頭にあったのは、もっぱら東アジアの歴史認識問題に象徴されるような記憶の戦争であった。しかしながら、現在は、中国政府による香港民主化勢力への弾圧に象徴されるような、むき出しの暴力による紛争もまた顕著となっている。こうした新しい紛争状況において、これまで行ってきた歴史認識や記憶をめぐる紛争と和解の研究が、どのような意義を持ちうるのかを再検討する必要が生じた。新しい国際情勢に即応した和解という理念の再検討も、今後の和解学の重要な思想・理論的課題である。
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Research Products
(27 results)