2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Multifaceted Proteins: Expanding and Transformative Protein World |
Project/Area Number |
20H05925
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田口 英樹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40272710)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | タンパク質 / リボソーム / 非典型的な翻訳 / 翻訳バイパス / RAN翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021(令和3)年度は本研究の目的達成のために以下のような研究を推進した。【研究1】翻訳途上の新生ポリペプチド鎖(新生鎖)に依存したリボソーム不安定化の普遍性と分子機構:新生鎖に依存して翻訳が途中終了する現象(IRD)が大腸菌で明らかとなった。1-1)大腸菌でのIRDの分子機構解析:IRDは負電荷に富んだアミノ酸配列の翻訳伸長が起こりにくくなるという点で翻訳の不備であると捉えることもできる。特に翻訳開始直後にIRDが起こりやすいことがわかったので、IRDを抑制するための分子機構について詳細に調べて以下の知見が得られた。a. リボソームに備わった新生鎖が通過するトンネルを新生鎖が占めるほどIRDは起こりにくくなる。b. 翻訳直後できるだけ嵩高いアミノ酸から構成される新生鎖が翻訳されるとIRDが抑制される。この知見はリボソームになぜ30アミノ酸長にも及ぶトンネルがあるのかについても重要な洞察を与えるものであり、以上をまとめて論文発表した(Chadani Y et al EMBO J 2021)。1-2)真核生物のIRD:大腸菌で見つかったIRDが出芽酵母やヒトの培養細胞でも起こることを前年度までの研究で見出した。さらに解析を進め、真核生物IRDでの分子機構もある程度明らかにした上で論文投稿した(プレプリントbioRxivにも掲載済み)。【研究2】非典型的な翻訳過程の分子機構:疾患に関与する非典型的な翻訳も重要な課題である。塩基リピートの異常伸長(筋萎縮性側索硬化症ALSにおけるGGGGCCリピートなど)から典型的な開始コドンATGが無いにもかかわらず翻訳が起こるリピート関連連非ATG翻訳(RAN翻訳)に関しての研究を実施した。特に、ヒト因子由来の再構築型翻訳系にてRAN翻訳を再現する系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
負電荷に富んだアミノ酸配列をもつ新生鎖による翻訳途中終了(IRD)は、2017年に私たちが大腸菌の研究から発見した非典型的な翻訳動態である。このIRDに関して、分子機構、進化的な保存性について大きな進展があった。また、本領域の中核課題の一つである疾患に関連した非典型的な翻訳(RAN翻訳)についても詳細に研究が行えるようになった。さらには、本学術変革領域研究 (A)の支援も受けて実施している質量分析によるプロテオーム研究で共同研究の成果が多数出ていることもあり、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022(令和4)年度は以下のような研究を推進する。【研究1】負電荷に富んだ新生鎖に依存して翻訳が途中終了する現象(IRD)が大腸菌で明らかとなった。1-1)前年度に引き続き、IRDを引き起こす原動力、IRDが起こる際の立体構造解析を行う。1-2)真核生物のIRD:大腸菌で見つかったIRDが出芽酵母やヒトの培養細胞でも起こることを昨年度の研究で見出した(Ito Y et al bioRxiv)。出芽酵母でのプロテオーム解析や遺伝学的な解析などを駆使して、IRDの生理的な意義を追究する。【研究2】非典型的な翻訳から産まれるタンパク質の多様性:非典型的な翻訳動態を考慮に入れると、細胞内で産み出されるタンパク質のレパートリーは増大する。非典型的な翻訳に由来するタンパク質がどのくらい存在するのか系統的に探索する。本研究では特に、私たちが見出したIRD現象に起因する翻訳バイパス現象を含めたフレームシフトによる新規タンパク質を開拓する。翻訳バイパスとは、二つの不連続な遺伝子読み枠から1本のポリペプチド鎖が合成される非典型的な翻訳で、これまでにT4ファージのgp60でしか知られていない。しかし、最近の私たちの研究から大腸菌のゲノム内に翻訳バイパス現象を起こす遺伝子読み枠があることを見出している。前年度までに解析してきた翻訳バイパス現象の分子機構を元にしてバイパス現象の再構成も行う。【研究3】非典型的な翻訳過程の分子機構:非典型的な翻訳の細胞内での動態を調べることも重要な課題である。前年度より、疾患に関わる非典型的な翻訳現象(塩基リピート病に関連した非ATG翻訳:RAN翻訳)の研究をスタートし、既に真核生物の翻訳再構成系でRAN翻訳を再現しているので、より詳細な分子機構を追究する。また、生細胞内でRAN翻訳を可視化するための実験系を準備する。
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