2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Multifaceted Proteins: Expanding and Transformative Protein World |
Project/Area Number |
20H05930
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
松本 雅記 新潟大学, 医歯学系, 教授 (60380531)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | プロテオミクス / 質量分析 / 非典型翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、さまざまな先端技術を取り入れることで新たなプロテオゲノミクスの枠組みである『仮説駆動型プロテオゲノミクス解析基盤』を創出を目指す。今年度は前年度見出したtrypsin非特異的切断による新規タンパク質同定妨害の問題を解消するため、N末端プロテオミクス解析基盤を構築した。既存のN末端濃縮法であるHUNTER法と、新規に開発した質量分析インフォマティクス技術であるPosition focused peptide centric analysis (PFOCE) を組み合わせることで、1万種類以上のタンパク質N末端を同定可能なシステムを構築し、未知ORF翻訳開始点や、細胞内でのプロセシングによって生じていると思われる新規のN末端が多数同定することが可能であった。 新規タンパク質の機能や存在様式の理解のために、それらの細胞内状態を局在・相互作用・構造・動態等の軸に展開し定量的な解析を行うことが必要である。今年度はタンパク質の存在状態をタンパク質動態軸と複合体・局在軸へ2次元展開する技術を確立した。動態計測法として、pulse-SILAC法やAHA pulse-chase法などを用い、分画法は界面活性剤等に対する可溶性の違いに基づく化学分画法や非変性条件下でのゲル濾過を実施した。これらの手法と上述したN末端濃縮法を組み合わせることで、典型N末端と非典型(新規)N末端の間の機能的な差異を複数見出すことができた。さらに、超ハイスループットプロテオミクス解析基盤の構築も行なった。具体的には、われわれが独自に開発したin site digestion of alcohol fixed cells (iSDAC)法を微小化およびオンプレート化することで96ウェルあるいは384ウェルマイクロプレート上で全ての工程を実施できるiSDAC-HTPシステムを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までは全プロテオームを対象としたショットガンプロテオミクスによって新規ORF同定に挑んでいたが、当該手法自体の問題が見つかり研究のゴールである未開拓プロテオームの解明が難航した。これは、予期しない結果ではあったが、一般的なショットガンプロテオミクスを用いた新規タンパク質同定に警鐘を鳴らすものであり、より慎重なデータ解析や新たな解析手法の導入を強く後押しした。今年度はこの状況を受けて、まずは使用する酵素の修飾や消化条件の見直しを行ったが、解決することはできなかった。そこで、タンパク質N末端にフォーカスを絞った戦略を取ることとした。最終的に既存のN末端濃縮技術と新規データ解析法を組み合わせることで、細胞内でのタンパク質N末端の実像を迅速に調べることができる新たな手法の確立に成功した。本手法は、一度の分析で多数の未知ORFも含むタンパク質N末端を同定・定量可能であり、この性能によってさまざまな機能プロテオーム解析と組み合わせを実施することが可能となった。そのため、迅速に新規N末端とタンパク質細胞内局在やターンノーバーの関係性を解き明かすことができ、前年度の研究の進捗遅延を相殺することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に確立したN末端プロテオミクスの手法は、多数の新規N末端の存在を明らかにすることができたが、その反面、既知N末端は3000種類程度と予想以上に少ないものしか同定することができなかった。この原因として、多くのN末端が実際は切断など何かしらの修飾を受けている可能性と、質量分析計による同定原理の限界によって検出できていない可能性が挙げられる。来年度は、新規ORFの機能解析に合わせてこのようなN末端プロテオミクスの不完全性の問題にも取り組む予定である。具体的にはtrypsin以外の酵素を補完的に利用することでより多数のN末端の同定を試みる。また、多数の新規N末端に関しては、各種N末端修飾酵素等や翻訳や分解系の阻害実験などと組み合わせることで、これらが生じるメカニズムの解明を試みる。
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