1990 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀フランスにおける「家」観念の変化と政治思想の転換
Project/Area Number |
02620036
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
吉岡 知哉 立教大学, 法学部, 教授 (90107491)
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Keywords | 絶対主義 / 「家」観念 / 家長 / 自由 / 家政 / 啓蒙思想 |
Research Abstract |
平成2年度の研究内容は以下の3点に集約されよう。第1点は、フランスの絶対主義政治思想における「家」観念の検討である。絶対主義は家産国家として成立するから、国家と「家」との関係はアリストテレス的な伝統的議論では説明不可能である。ボダンが『国家論六篇』において国家を論じるのに「家」のアナロジ-を用いるのは、このような文脈でとらえられるべきであろう。また、家長が他の家長とともに協同社会を形成するというボダンの議論は、政治権力と「家」、国家と「市民社会」との関係についてのその後の考え方の基礎を形作っていると考えられる。また、ボシュエの『聖書の言葉からひきだされた政治学』は、宗教の側から国家と「家」のアナロジ-を補強していく。第2点は、このような議論と対抗しながら成立してくる18世紀フランス啓蒙思想における「家」観念の検討である。今年度は主にモンテスキュ-を扱い、彼の言う「自由」が伝統的な特権のありかたとどのように関連しているのかという点について、『法の精神』、『ペルシャ人の手紙』を中心に分析をおこなった。特にモンテスキュ-の商業論は家政と国家経済との関係を考察するうえで重要であると思われる。この点については次年度において他の思想家を扱う際に比較検討することになろう。第3点はアナル派に代表されるフランスの社会史、ドイツの国制史研究など、近年の歴史学の成果の収集と整理である。近世初頭におけるヨ-ロッパ社会の構造的変動、マンタリテの変化(心性)について多くの知見がえられたが、伝統的な「家」の観念が近代ヨ-ロッパの政治社会のありかたを強く規定しているという指摘と、「家」のありかたの変化の側面との関係についてはなお多くの検討が必要であると考えられる。なお、今年度の研究をすすめるにあたって、他大学の研究者と意見交換の機会が多くえられ、とりわけ方法論については数多くの貴重な示唆を受けた。
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