1991 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀フランスにおける「家」観念の変化と政治思想の転換
Project/Area Number |
02620036
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
吉岡 知哉 立教大学, 法学部, 教授 (90107491)
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Keywords | 絶対主義 / 「家」観念 / 家長 / 家政 / 啓蒙思想 / 家共同体 / 心情的親密園 / 近代家族 |
Research Abstract |
中世以来、カトリック教会は結婚を男女両性の同意に基づく、神聖で解消不能なサクラメントとして位置づけてきた。十六世紀以降、政治社会の一元的統合をめざす王権は、結婚についても形式的要件を求め、家父長の権限を強化することによって家の制度的確定をはかる。ボダンは家政と国政とをパラレルにとらえることによって家長の絶対性と王権の絶対性とを基礎づけ、ボシュエは、聖書の記述を根拠に、世俗権力に宗教的な権威を結び付けた。このような絶対主義政治思想を近代契約説的な論理構成によって批判したのがロックである。ロックは政治権力と家長の権力とを峻別すると同時に、家族の根拠を生殖と種の保存におき、こどもの養育をその最も重要な要素と見なした。ロックの見解は翻訳を通じて、モンテスキュ-、『百科全書』派に影響を与えるが、そこでは、生殖と養育の場という機能的側面がロック以上に強調されることになる。このような傾向に対して、ルソ-は、家族を人間の心情の発達の場、夫婦愛と父性愛に基づく親密圏として位置づける。家族とは男女両性の結合によって作られる人為的人格であるとされ、ここに、家族という「小さな祖国」を通じて「大きな祖国」へと至る心情の回路が形成されることになる。『ヌ-ヴェル・エロイ-ズ』には伝統的な家共同体の理念と心情的親密圏としての家族の理想とがともに表現されていると言えようが、他方で、恋愛の情念が制度的な安定を脅かしている点を見逃すことはできない。フランスにおいては、大革命後の民法典によって家族は法的制度の中に位置づけられることになるが、近代的家族と呼ばれるものの根拠は必ずしも自明ではなく、なお多くの検討の余地を残していると言わなければならない。なお本研究については、平成3年度日本政治学会研究会において、「啓蒙期フランスにおける〈家〉観念と政治思想」の題で報告する機会をえた。
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