Research Abstract |
多くの義歯裏装材が開発され,市販されているが,実際の目的にあった材料学的性質(物理化学的,機械的,生物的)については明確でない。そこで,多くの市販製品を取り上げ,目的別に材料学的な観点から整理,分類し,その市販製品を用いて,粘膜調整,動的印象および暫問裏装の術式を患者に適応して,その臨床的要件を検討した。すなわち粘膜調整には床下粘膜の変形回復による持続的な弱い力に対して,流動し,その作用が長期間,持続することが必要である。動的印象には初期には流動性が高く,機能時に負荷がかかっている状態の形態を再現し,その後には急激に流動性が減少し,模型を製作するのに変形しないことが必要である。暫問裏装には一旦,義歯に裏装され口腔粘膜に適合した後には流動性が低く,咬合高径など変化しないことが望まれ,変形せず,咀嚼力などの外力を吸達するに十分弾性が高いことが必要である。以上の点をよく把握し,患者の治療目的に合致した材料および術式を選択をすることが重要である。 動的印象の要件を満たす材料として粉末ではPEMAの分子量および粒度,溶液として可塑剤(BPBG)へのアルコ-ルの添加について実験的に検討した。その結果,粘弾性的性質の経時的変化の点からPEMAの分子量は約20万が適当であった。また初期の流動性と関連するゲル化時間には,粉末の粒度と溶液のアルコ-ル濃度とで大きく関係した。すなわちゲル化時間を短くするには粉末の粒子を小さくするか,あるいは可塑剤へのアルコ-ル濃度を高めればよい。しかし,アルコ-ルは水中に流出しやすく結果的に裏装材の収縮が大きくなるので,濃度は低めがよい。したがって,動的印象には分子量約20万のPEMA粉末を用い,その粒子は50μm程度に小さくし,溶液のアルコ-ル濃度は10%程度が適切であると考えられた。
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