1992 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03610164
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山本 隆志 筑波大学, 歴史・人類学系, 助教授 (50191416)
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Keywords | 得宗家検注 / 名坪付帳 / 若狭国西津荘 / 若狭国太良荘 / 損田注文 / 年貢減免 |
Research Abstract |
本年度は得宗家検注の帳面とその性格の考察に努力を集中した。若狭国遠敷郡では東寺領太良荘の得実家検注が知られていたが、その近荘の西津荘(神護寺領)でも得宗家検注が確認でき、この二つを考察することにより得宗家検注の特質が考察できた。太良荘では得宗領化するとすぐに、得宗家公文所による検注が実施されたが、それは領家検注とも、従来の地頭による自名坪付とも異なるものであり、新しい段階の荘園知行となった。地頭方分では一筆ごとに面積・斗代を設定するとともに、領家方分についても検注を行い、名主知行分を認定しつつ、新たに新田なる地目を設定し、地頭年貢を賦課している。また畠についてもこの時初めて検注を実施し、名主・百姓の所有を公認しつつ、年貢を定めた。西津荘での得宗家検注は、領家方公文を動員しつつ、山畠・山木の検注をおこない、実に田・畠・塩浜の検注に進んだ。西津荘百姓は製塩業が盛んで、山・塩浜の分割所有を事実上進めていたが、得宗家検注はそれを公認しつつ、年貢額を定めている。しかも田・畠では在地慣行としての十分一免を積極的に取りこんで、名主層の利益に合致する形でおこなっている。鎌倉末期は名主層の社会的・政治的成長が顕著であることがわかるが、この時期の荘園知行の一大問題たる年貢減免額決定過程のなかでもそれが確認される。減免額決定は領家と名主百姓等の合意でなされるが、その過程で大きな役割を果すのは名坪付帳であり、これに基づいて損田注文も作成される。年貢免除分の各名への配分もこれに準拠しており、名坪付帳が荘園知行を規定している。室町期以降の荘園知行はこの上に立つものであり、年貢散用状の作成として実現する。現地調査では、この名制度を受容した在地の字(アザ)の構造を究明した。特に太良荘鳴瀧はその様子が看取される。
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