1993 Fiscal Year Annual Research Report
生命の起原研究についての科学史的研究:1920年代から1950年代まで
Project/Area Number |
03680094
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
江上 生子 東京工業大学, 工学部, 助手 (80016493)
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Keywords | 20世紀初頭 / ロシア・ソ連 / 自然選択 / ダーウィニズム / オパーリン / 化学進化説 |
Research Abstract |
1今年度は特に、化学進化による生命の起原説を当時の文化および社会との関連でとらえることを目的としたが化学進化説の提出者の一人J.B.S.ホールデンについては、その生命の起原についての化学進化説の意味、背景を含めて、H.Kamminga “Studies in the History of Ideas on Origin of Life from 1860"(1980)に記されている以上のことを明らかにすることはできなかった。 2.生命の起原の研究史はユーリー、ミラーの実験までは、オパーリンが中心であるため彼の1938年までの基礎的および応用分野の生化学研究の発表論文を調査し、生命の起原研究との関連を考察した。また、オパーリンの科学活動の時期の区分を提示し、ソ連社会の情況を考慮にいれつつ分析した。 3.ロシアのダーウィニズムは生存闘争概念を避ける、あるいは排除するものだという主張(D.Todes 1989他)がある。しかし、オパーリンの生命の起原説は、自然選択を鍵とするものであり、"生存闘争"を排除する思想ではない。化学進化説は、ロシアの場合にも、イギリス同様、ダーウィニズムの正統の継承であることを明らかにした。 4.20世紀初頭の文化との関連では、亀山郁夫『終末と革命のロシア・ルネサンス』(1993)が示唆的である。特に1920年代、「不死と復活とをめぐる議論」が広がったことと、"生命の起原"がとりあげられたこととは無関係ではないと思われる。「疑似科学がさかんに生み出された」ソ連において、チミリャーゼフ(Todesは、生存闘争を容認した、ロシアでは例外的なダーウィニストとする)以来のダーウィニズムの継承者としてのオパーリンの意図を明らかにしたいところであるが、この点は未検討に終った。
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