Research Abstract |
本年度は、前年度に購入,試作した高速OPアンプ電源モジュール、ファンクションジェネレーター,イオン銃、イオン源ブロック,及び、質量分析計と本装置とを連結するインターフェースボードからなるパルス照射型高エネルギー粒子発生装置の評価と実試料への応用を行った. その結果,以下に示す新たな知見と効果を得ることができ,パルスイオン化法が試料イオンの検出感度の大幅な向上に極めて有効であることを示すと同時に,独自の発想によるパルスイオン化法の実用化に成功した. パルスイオン化における,試料及び試料を溶解するマトリックスの化学的性質とイオン化効率との関係を調べ,その結果,疎水性の高い試料ほどイオン化しやすく,また,マトリックスとしては,1-チオグリセリンと水の混合溶媒が最も高いパルス効果を示した. イオン化効率の最もよいパルス幅,種類,周期を検討した結果,分子イオンの測定においては,低分子量(-2000)の試料においては,100msec周期のパルス幅30msec,高分子量のもの(5000-)においては,1.4sec周期のパルス幅700msecが適しており,それぞれでの検出限界は前者では,5fmol,後者では100fmolであり,従来のイオン化法に比べ,約10-100倍検出感度が高いことがわかった. 同様に,MS/MS測定における検出限界,すなわち,構造解析に十分なフラグメントイオンを得るための試料量は約500fmolであり,従来に比べ,10-50倍検出感度の高いフェムトモルレベルの高感度MS/MS測定を実現することができた. 試料の微量化に伴うバックグラウンドの試料分子のイオン化に及ぼす影響をなくすために,新たに白金製の試料導入用ターゲットを試作し,サンプリング毎に約1500度で加熱処理を行い,残存有機物質の完全除去を行う方法を採用した. ヒト血液から微量に得られた糖蛋白質(血液凝固因子)の糖鎖構造解析に応用し,本試料装置の最終評価を行った.糖蛋白質酵素消化物から単離された糖ペプチドを上記知見の下にパルスイオン化法によりイオン化し,分子量の測定及び構造情報を得るためのMS/MS測定を行った.その結果,一般に,糖ペプチドのイオン化効率は悪いにもかかわらず,限られた試料量で構造解析に十分なイオンを観測することができ,新規な糖鎖構造を推定することができた.特に糖ペプチドのMS/MS分析による糖鎖構造解析に新たな道を開く有効な手法として利用価値は極めて高いものと思われる.
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