1996 Fiscal Year Annual Research Report
東アフリカの農業圏と遊牧圏における地域経済と社会変化に関する人類学的研究
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06041009
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Research Institution | UNIVERSITY OF TSUKUBA |
Principal Investigator |
佐藤 俊 筑波大学, 歴史・人類学系, 教授 (00114497)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
WANDIBA Simi ナイロビ大学, アフリカ研究所・教授, 所長
小田 亮 成城大学, 文芸学部, 助教授 (50214143)
湖中 真哉 静岡県立大学, 国際関係学部, 助手 (30275101)
松園 万亀雄 東京都立大学, 人文学部, 教授 (00061408)
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Keywords | レンディーレ族 / メル族 / クリア族 / サンブル族 / ジェンダー / 郷土組織 / 遊牧的地域経済 / 部族の再活性化 |
Research Abstract |
本年度は研究計画の最終年度にあたるので、過去2年間の研究実績に準拠し、地域の民族関係と経済網を視野に入れつつ当該民族の社会的変化の動態に関する資料を収集した。この結果、以下のような成果をえた。 1.旱魃の深刻化は家畜の商品価値を招き、しかも交易場所へのその供給も途絶えるために、在地商人の取引の機会が脅かされる。この窮状に対して、商人は特定の牧民集団(クラン)との結びつきを強めて、販路を確保する動きを強めた。一方、牧民は、従来の集落・家畜キャンプの二分居住を修正して、乳の得られるキャンプ地の近くに、衛星村を応急処置として作り、食糧難を凌ぐ方策をとった。この方策は、19世紀末の大飢饉以来の緊急避難の処置である。 2.クリア社会では、郷土組織が出稼ぎ先の都市部と母村とのコミュニケーションに重要な役割を果たすようになっている。この組織は、構成員の冠婚葬祭でとくに機軸的な機能を果たす。 3.メル-社会は、家族計画の政策的導入や婦人団体の自助活動によって、伝統的なジェンダー観が激しく揺さぶられている。とくに、教会と初等教育の普及は、性的な意識と行動に大きな世代ギャップを生み出し、伝統的な家族制度と村落構造を不安定にしている。 4.ケニア国の多党化政治の混乱は、以前にもまして国内を混乱に導いている。その大きな要因は、旧来の部族意識の再活性化と中央政府の混乱にあるが、遊牧地域では家畜の略奪が頻発化し、農村部でも政治的党派をめぐる衝突事件が頻発化してきた。これらの現象が、旧来の“部族"的連合の再活性化による新たな分権的な地域社会の編成という結果をもたらす可能性が強い。
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Research Products
(12 results)
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[Publications] SATO,Shun: "The commercial herding system among the Garri" Essays In Northeast African Studies,Senri Ethnological Studies. 43. 275-294 (1996)
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[Publications] SATO,Shun: "The Rendille age system as an instrument of clan coherence and subsistence cecurity" East African Age Systems in Transition,Senri Ethnological Studies. (in press).
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[Publications] 湖中真哉: "自転車をこぐモラン" JANESニュースレーター. No.5. 12-14 (1996)
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[Publications] 小田亮: "「伝統の創出」としての門中化:沖縄のユタ問題ともうひとつの現象の共同体" 日本常民文化研究紀要. 19. 113-154 (1996)
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[Publications] 小田亮: "ポストモダン人類学の代価:プリコルールの戦術と生活の場の人類学" 国立民族学博物館研究報告. 21(4)(印刷中). (1997)
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[Publications] 佐藤俊: "「遊牧民と仲買商人:北ケニアにおける遊牧的な地域経済」147-173 田中二郎・掛谷誠・市川光雄・太田至(共編)『続自然社会の人類学:変貌するアフリカに生きる』" アカデミア出版会, 441 (1996)
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[Publications] 佐藤俊: "「レンディーレ社会の婚姻と女性」pp.54-80,和田正平(編)『アフリカ女性の民族誌:伝統と近代化のはざまで』" 明石書店, 452 (1996)
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[Publications] 松園万亀雄: "「性研究は何をめざすか」pp.12-27 松園万亀雄(編)『性と出会う:人類学者の見る・聞く・語る』" 講談社, 282 (1996)
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[Publications] 湖中真哉: "「牧畜的世界に読み換えられた近代的世界:ケニア中北部の牧畜民サンブルの事例」田中二郎・掛谷誠・市川光雄・太田至(共編)『続自然社会の人類学:変貌するアフリカに生きる』pp.117-145" アカデミア出版会, 452 (1996)
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[Publications] 小田亮: "「しなやかな野生の知:構造主義と非同一性の思考」pp.97-128HC05:『岩波講座 文化人類学:12;思想化される周辺世界』" 岩波書店, 307 (1997)
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[Publications] 小田亮: "「翻訳としての文化:カニバリズム・文化相対主義・オリエンタリズム」村田純一(編)『理性と暴力』" 世界書院(印刷中),
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[Publications] 湖中真哉: "「経験世界の落差はいかに語られるか:ケニア中北部・サンブルの世間話の事例」静岡県立大学国際関係学部(編)『国際関係双書:14:世紀転換期の世界と日本』" 北樹出版(印刷中),