1996 Fiscal Year Annual Research Report
「童謠」と〓惑星伝説の基礎的研究-後漢以後における讖緯説の展開
Project/Area Number |
06610017
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Research Institution | EHIME UNIVERSITY |
Principal Investigator |
串田 久治 愛媛大学, 法文学部, 教授 (70127223)
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Keywords | 〓惑星 / 童謠 / 讖緯説 / 占星術 / 予言 / 災異説 / 託宣 / 詩妖 |
Research Abstract |
平成8年度は、中国古代の神秘思想である占星術と讖緯説を探りながら、「童謠」が〓惑(火星)と結合して変容していく過程を、後漢から三国を中心に考察した。 古代中国の占星術も、もともと天の譴責の役割を担っていたが、五惑星の中で特に不吉な惑星-地上から肉眼で目にすることができ、一見して不気味な、しかも天文観測において予測不可能な運行をするための〓敗の惑星として恐れられた〓惑が、これまた譴責を担った「童謠」と合体する。中元元年(五六)、光武帝が図讖を宣布してより讖緯に翻弄された後漢王朝、永下九年(九七)、張衡が圖讖の禁絶を上奏したころ、「童謠」の現実政治・社会批判は権力機構にとっては反逆的行為に等しかった。が、その「童謠」が後漢末に〓惑伝説と結合すると未来記となって堕落する傾向を見せ始める。ところが、その後、晉の武帝・後趙の石虎・前奏の符堅らは星辰讖緯の学を禁止したにもかかわらず、「童謠」は「詩妖」としてますます盛んに行われたことは『晉書』「五行志・詩妖」に顕著である。確かに、かつて災異説が讖緯説に取って代わられたのと同様、天の託宣に変容した「童謠」が時に権力機構に取り込まれて権力擁護・体制保持の代弁者として利用される形跡も見られる。すなわち、権力批判・反体制としての「予言」・「謠」・「〓惑」は、その「予言性」の故に体制擁護・権力の正当化のために利用されたことも少なくない。〓惑と結合した「童謠」はその意味で漢代に流行した神秘思想-災異説・讖緯説のひとつのバリエーションとして位置付けることができると考えられる。しかしながら、「童謠」が讖緯説と違うのは、「謠」の本来の性質-自然に人口に膾炙して憂いや恨みを共有する人々の間に流行するものであって、権力機構が作為的に流行させたり禁止したりすることが極めて困難なものであったという点であり、それ故、「童謠」は以後も反体制知識人の武器として次々と生まれ歴代の史書に記録され続けた。
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