1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610165
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
栗岡 幹英 静岡大学, 人文学部, 教授 (20145155)
|
Keywords | 生活世界 / ライフ・ヒストリー / 手記分析 / 質的分析 |
Research Abstract |
今年度は、方法論の検討と具体的分析対象の設定という二つの課題を追求した。前者については、手記分析の方法論の基礎的な枠組みとしてJ.ハバーマスの提起する「生活世界-システム」の二社会論を援用するという方針のもとに、手記を「生活世界の声」(E・ミシュラー)の一形態と見なすにあたっての方法論的問題を検討した。その際に問題となるのは、1)手記執筆者がシステムとおよびそのフロントを構成する他者(たとえば病院と医師)とに対して手記という手段で行う発言が、社会学的分析の対象としていかなる意義と限界をもつか、2)この意義は、システムと生活世界との関係のどのようなあり方から生じるのか、ということである。当面の結論として、手記は対面的相互作用である対話のような直接的相互批判の契機を含まず、自己反省の形で生ずる言説であるが、社会的相互佐用のより広い文脈のなかで、妥当な自己反省と相互批判の契機を含みうるという認識に至った。この検討は、次年度前半に論文の形で公表する予定である。 以上のような見地から、具体的分析の対象として医療における闘病手記、とりわけ医療過誤被害者の手記を取り上げ、検討しているところである。取り分け、スモン被害者に関する過去の研究との関連で、HIV被害者の手記を収集しているほか、1度の聞き取りを行った。この具体的分析は次年度後半に論文としてまとめ、前半の方法論的分析とともに研究報告書に収録する予定である。
|