1995 Fiscal Year Annual Research Report
奉納絵馬の制作技法の研究-制作技法・素材が絵馬の保存状況に如何に影響するか-
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06610296
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Research Institution | Gangouji Institute for Research of Cultural |
Principal Investigator |
山内 章 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90174573)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 里佳 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (30250351)
菅井 裕子 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (20250350)
金城 直子 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (20169585)
伊達 仁美 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (00150871)
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Keywords | 膠絵 / 制作技法 / 素材 / 支持体 / 絵具 / 額装 / 保存 / 工夫と丁寧さ |
Research Abstract |
7年度は倉吉市長谷寺等4社寺で計135点の絵馬を調査。6、7年度で園城等等30ヶ所で、近世・近代の絵馬736点を調査し、その素材は膠絵・油絵・写真等17種類を数えた。絵馬の時代的特徴を集約すると近世初頭〜18C前半頃までの着実な技法や素材で制作された絵馬が主体の第1期、以降19C中頃までの中小絵馬流行の第2期、素材が多様化する幕末明治期以降の第3期に分類できる。以下に調査で85%を占める膠絵の絵馬の制作技法と保存についてまとめ、当該年度の研究実績報告とする。支持体や額装は、丁寧な作りの絵馬に破損を防ぐ様々な工夫が見られた。第2期以降に多数制作販売された中小絵馬は、素材や制作の手抜きに起因する破損が多く認められた。この調査結果に基づき考えられる安定した仕様は、「柾目材で厚み1cm以上の杉または桧板を用い、ひぶくら接ぎで画面を構成し接ぎ目には合釘を入れ、板裏に蟻止めで桟を通し画面を固定する。額装は内側に溝を切り画面板をはめ込み、四隅で額木をほぞ組して固定する。額装と画面板とは釘止めしない」である。彩色絵具は胡粉、朱,丹、弁殻、岱赭、黄土、籐黄、藍、ウルトラマリンブルー、岩緑青、草緑、墨、岩黒、金銀箔泥、黄銅泥、黄鉄鉱砂。合わせ絵具では藍の具、朱の具、草緑の具等を確認。白色で鉛白と亜鉛華、赤色で臙脂や本洋紅、青色でてプルシャンブルー、緑色で人造緑青も考えられるが未確認。岩群青の使用例は少なくほとんどが藍の具で代用。安政年間以降ウルトラマリンブルー使用。安価な絵馬は安価な絵具で描くように、絵馬は絵馬の質によって違ってくる。彩色の下地は胡粉と黄土である。黄土は第2期に多く見られる。基底材の素材や表現効果を意図して又は手抜きにより、空間は彩色せず図柄のみを彩画するものもある。絵具の剥落は胡粉層の厚みや粗雑な塗り方に大きな原因があると思われ、これは他の彩色絵具にも共通。胡粉は彩色の発色を高め、基底材の酸化や緑青の礬水焼けを防ぐ等の効果もある。彩色の保存に関しては、描き手の技量や丁寧さがその後の保存に強く影響するといえる。
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