1995 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末ドイツにおける技術の制度化と社会経済-現在技術文明の比較経済史的研究
Project/Area Number |
06630066
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Research Institution | Momoyama Gakuin Daigaku |
Principal Investigator |
種田 明 桃山学院大学, 文学部, 教授 (90146986)
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Keywords | 危機管理 / 心のケア / 制度化の罠 / ドイツ関税同盟の完成 / 公的資格 / 葛藤とダイナミズム / 伝統的なエリート職業 / 文明を構成する全体・世界 |
Research Abstract |
【阪神淡路大震災のため、研究実績は当初予定の約三分の二となった。停滞は許されないので研究は継続されている。】 冷戦が終焉した戦後50年(1995年)に、「技術の制度化」をめぐる大事件が相次いだ。一は阪神淡路大震災(研究代表者種田も被災した)で、現代技術文明と危機管理の脆さを露呈したものである。都市生活や社会の復旧・復興にも技術の制度化が求められている。二は地下鉄サリン事件で、理工系大学院で学んだ信者による科学技術の悪用(テロ行為)は、技術の制度化には(震災とも並行する)「心のケア」がセットされねばならないことを示唆している。機能や効率ばかりを重視していては、人間のための技術は産まれない。三は高速増殖炉もんじゅナトリウム漏れ事故で、次世代エネルギー開発(技術)計画は大幅に遅れることとなる。事故(技術)情報を隠したことは制度化に潜む「罠」である。 ドイツ・ヨーロッパでは(2年続いた異状気象、フランスの核実験による統合の低迷を除き)、マ-ストリヒト条約の内実すなわちヨーロッパ統合をより高次へ向わせる蝸牛の歩みがつづいている。共通通商政策はドイツ関税同盟の「完成」といえるかもしれない(大西健夫・岸上慎太郎編『EU統合の系譜』早稲田大学出版部;諸田寛ほか著『ドイツ経済の歴史空間』昭和堂、1995年)。 100年前も今日も、技術と社会に関しドイツでは公的「資格」所有者の責任において意思決定してきた。19世紀末から20世紀初頭にかけて、ドイツは「資格社会」の枠組みに全職業世界を包摂していく/いった過程がくり広げられている。しかし、それは調和ある斉一な社会メカニズムの形成ではなく、選抜と選別、任用と排除、競合とヒエラルヒ-的上下関係といった葛藤とダイナミズムが働いている/いた世界である。(望田幸男編『近代ドイツ=「資格社会」の制度と機能』名古屋大学出版会、1995年) 本研究の課題「19世紀末ドイツにおける技術の制度化と社会経済」とは、まさに20世紀末の問題でもあることで1995年は示したものであった。技術は伝統的なエリート職業だけでなく、文明を構成する「全体」、世界とかかわっているのである。
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