Research Abstract |
クモ糸は高強度で環境に優しい21世紀の繊維材料として研究され始めている.本研究は,クモ糸の構造と強度を調べること,クモ生息地環境評価への適用を念頭に置きながら,円網の変形挙動に及ぼす酸性雨,紫外線の影響について調べることを目的としている. ジョロウグモの引き糸(円網の横糸と同じ糸腺で作られる)の基本的な性質を調べるため,(1)表面観察,(2)成分分析,(3)FTIR分析,(4)熱分析,(5)動的粘弾性試験を行った.また機械的性質を調べるため,クモ糸引張試験装置を試作し,応力・ひずみ曲線を求め,弾性係数,破壊応力,破壊ひずみについて,他の人工材料と比較検討した.さらに,糸強度に及ぼす環境の影響を考えるため,2種の強さの紫外線,硫酸を主成分とした疑似酸性雨および両者の複合環境下に任意時間暴露し,糸の劣化を調べた.また,横糸についても,変形挙動を調べた. その結果,(1)クモ糸は,絹糸と同じように,主に側鎖の短い中性アミノ酸からできている,(2)直径数μmの1本の縦糸は,さらに細い約0.1μmのミクロフィブリルから構成される,(3)約250℃まで熱的に安定である,(4)現在最高強度の人造繊維と比べて,引張強さ(約2000Mpa),弾性係数(約15Gpa)は約1/5と低いが,破壊までの伸びは5倍,破壊までのエネルギは3倍,また圧縮強度はさらに強いことを考慮すると,将来の繊維材料として,極めて有望である,(5)通常の約5倍の紫外線に1時間以上暴露すると,急激に劣化が進行し,1日暴露すると,糸はほとんど強度を支持できなくなる,(6)現状において降るような酸性雨(せいぜいpH5)では,クモ糸はあまり劣化しない,(7)横糸の応力・ひずみ曲線はJ型となり,破壊までのひずみも縦糸の10倍以上となる,(8)横糸を縮ませると,虫を捕らえるための粘着球は合体し,横糸は合体球の内部に折り畳まれて組み込まれ,再度引張すると,横糸はその合体粘着球から送りだされるという極めて興味深い変形機構(ウインドラスシステム)があることを示した.
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