Research Abstract |
全部床義歯の支持基盤である顎堤の吸収には,解剖学的因子,新陳代謝的因子,補綴学的因子が関与しているとされているが,その相互関係については未だ明らかにされていない.そこで,本研究は,正常有歯顎者10名,全部床義歯装着者20名を被験者として,義歯支持基盤と最大咬合力および咀嚼効率について検討した.全部床義歯装着者の義歯支持基盤を評価するために,パノラマX線写真より算出された顎堤高さ指数と新たに考案した義歯支持基盤レプリカ法による義歯支持基面積,義歯支持基盤体積を測定した.また,種々の吸収因子が関与しない状態の無歯顎顎堤を想定し,正常有歯顎者の歯肉頬移行部を再現した下顎研究模型より歯冠部を切除した後に,義歯床を製作し,レプリカ法により義歯支持基盤面積と体積を測定した.さらに,プレスケール,日本光電社製咬合力計により最大咬合力および篩分法による咀嚼効率を測定した. 得られた結果は以下の通りである. 1.全部床義歯装着者において,最大咬合力,義歯支持基盤面積,義歯支持基盤体積の3項目を独立変数,咀嚼効率を従属変数として重回帰分析を行ったところ,独立変数と従属変数との間に有意な相関(R=0.843)が認められ,特に最大咬合力,義歯支持基盤面積は高い偏相関係数を示した.このことは,高い咀嚼機能の発現には,最大咬合力,義歯支持基盤面積が重要な因子となっていることを示唆するものである. 2.義歯支持基盤面積,体積について,正常有歯顎者と全部床義歯装着者とを比較したところ,全部床義歯装着者のそれらは正常有歯顎者のそれに比して有意に減少しており,特に,義歯支持基盤体積の減少が著明であった.したがって,支持基盤の評価に用いるレプリカ法が,抜歯により高さ方向を主体とする吸収が生じ,さらに種々の吸収因子の関与によって吸収が進行して行く過程の記録,評価に有用であることが示唆された.
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