1996 Fiscal Year Annual Research Report
イタリアにおける地域の内発的発展に関する実証的な比較研究
Project/Area Number |
07041064
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
新原 道信 横浜市立大学, 商学部, 助教授 (10228132)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 夏子 長野大学, 産業社会学部, 講師 (30257505)
矢澤 修次郎 一橋大学, 社会学部, 教授 (20055320)
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Keywords | 社会的文脈 / 水脈 / 地域社会発展 / “移動民(homo movens)" / 社会的・文化的“島" / 境界領域 / 寄港地 / コミュニティ形成 / 地域の内発的発展 |
Research Abstract |
本調査研究は、イタリア20州の中でもとりわけ自治権が保証されている特別州であるトレンティーノ・アルト・アディジェ州とサンデ-ニャ州を対象として、イタリアの諸地域がもつ複数の社会的文脈/水脈を比較研究し、そこで得た知見によって、日本の個々の地域社会がもつ固有の文脈/水脈に即した地域社会発展の方途を展望することにある。イタリア社会自体は、歴史的にもそして現在も、ことなる言語・文化・出自をもった個人や集団を受け入れると同時に移民を輩出してきた。今日とりわけ、二世三世となって出身地に「還って」来る帰還移民がもたらす価値観や世界観は、地域の内発的発展にとってとりわけ重要な意味をもつに至っている。したがって地域社会研究の深部に入っていくためには、そのような“移動民(homo movens)"である個々人の内部に刻印された歴史性を把握するための調査、すなわち“移動民"の調査が不可欠であることが明らかになってきた。 それゆえ今年度は、トレント(トレティーノ・アルト・アディジェ州の州都、トレンティーノ県の県都)とサッサリ(サルデ-ニャ州サッサリ県の県都)における調査に先だって、同地域出身者の移動の足跡を辿るために、アメリカ合衆国に矢澤修次郎を派遣、ブラジル連邦共和国に新原と研究協力者のA.メルレルを派遣して、情報収集と調査が予想以上の成果をおさめた。ここでの調査の成果をふまえて、3月にはイタリア側の研究協力者の助力によりインテンシブな聞き取り調査をトレントとサッサリですすめている。こうした聞き取り調査の過程で得られた知見は、当面は以下のものである。 故郷のサルデ-ニャやトレンティーノに「帰還」するとっても、二世や三世にとっては異境の地でもある。それにもかかわらず「立ち止まる」のには固有の意味がある。すなわち、“移動民"は、個々人の体験によって、いやすい場所、いやすい人を見出し、そこに立ち寄る。彼らにとっての立ち寄る場所は、社会的・文化的“島"、境界領域であり、「まれびと」の立ち寄る場所である。そして、いやすい場所や相手の前では、とりとめのない自己を表出する。ここにおいては、個々人の“社会的文脈/水脈"が相互浸透をおこし、地域がつくられる。とりとめもなく、複数性をもっているが、なんらかのもとまりをもつもの同士が、まじわり、ぶつかり、和解する。相互承認は不定形なものとして起こる。 “移動民"にとっての地域は、固定された区画ではなく、動態としての場所、認識によって再構成された場所であり、そこにいて静止し、やすらぐ場所である。寄港地として独特の景観をもった土地としてその眼にうつる。こうして個々の地域は、鐘乳洞のつららが時を経て、石灰質の混じった流水からひとつの石柱へと形成されていくように、「つらら状」に人が流入してきた場所としてとらえなおされる。この“移動民"の見方で地域社会を見るならば、これまでの地域社会研究の主要な研究課題の一つであった<都市への流入者と旧住民との間の接触・衝突によるあらたなコミュニティ形成>に、根本的な革新をもたらすはずである。そこでは、民族や地域や流入時期によって<われわれ>と<かれら>にわかたれたものという構図ではなく、自らの内に、“移動民"の要素を発見したものたちによる相乗と相克の過程として地域の内発的発展がとらえられるはずである。
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Research Products
(9 results)
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[Publications] Michinobu NIIHARA: "Gli occhi dell'oloturia." Civilta del Mare.V・6. 13-16 (1995)
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[Publications] 新原道信: "「イタリアの地方大学における地域形成と人間形成の試み-サッサリ大学を基盤としたA.メルレルの教育・研究活動について-」" 経済と貿易. 169. 62-75 (1995)
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[Publications] 新原道信: "「地中海の『クレオール』〜生成する“サルデ-ニャ人"〜」" 現代思想. 24・13. 8-17 (1996)
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[Publications] 新原道信: "「“移動民(home movens)"の出会い方」" 現代思想. 25・1. 212-218 (1997)
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[Publications] Natsuko TANAKA,: "“Dialogo fra il vento e la terra. Comparazione tra alcuni fatti sociali territoriali in Sardegna e in Giappone,"" Quaderni bolotanesi,. 21. 61-65 (1995)
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[Publications] 田中夏子: "「工業高校生及び工業高等専門学校生の、職業教育観と職業志向に関する国際(日本-イタリア)比較研究" 長野大学紀要. 18・3. 65-83 (1996)
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[Publications] 新原道信他: "コミュニティとエスニシティ" 勁草書房, 302 (1995)
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[Publications] 新原道信: "ホモ・モ-ベンス〜旅する社会学〜" 窓社, 273 (1997)
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[Publications] 矢澤修次郎: "アメリカ知識人の思想" 東京大学出版会, 320 (1996)