1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07301063
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Section | 総合 |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 健一 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80011328)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (80167163)
久保 光志 東京女子大学, 文理学部, 教授 (50137759)
磯山 雅 国立音楽大学, 音楽学部, 教授 (00118895)
前田 富士男 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (90118836)
藤田 一美 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (60065480)
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Keywords | 作品 / アリストテレス / カント / バッハ / 楽譜 / ポイエ-マ / 天才 / クリスタル |
Research Abstract |
本年度は既に5回の研究発表会をもち、3月にもう一度研究会を開催する予定でいる。藤田一美は「古代ギリシアにおける作品概念」を考察した。通例近代の作品概念に相当するギリシア語と見られるのは「エルゴン」であるが、この語の実際の用例には「作品」の意味で用いられたものが殆どない。そこで、プラトンの著作をも参照しつつ、主としてアリストテレスの『詩学』を検討することによって、「作品」に最も近い語として「ポイエ-マ」を挙げるという結論を得た。次に前田富士男は「近代美術における結晶的作品」に注目し、今世紀初頭の新しい造形原理として「クリスタル」の概念の重要性を提唱した。通例は、旧来の目に見える平面構成の原理としてのコンポジションから、より法則的なコンストラクションへの移行が論じられる。しかし、「クリスタル」もまた大いに注目すべきものであり、この概念には、抽象性、純粋性、個性への批判だけでなく、立体性の含意から更には新しい社会への期待までが含まれていた。次に磯山雅は「バッハにおける《作品》概念の形成」を研究した。音楽における作品概念は16世紀のリステニウスに始まる、と見るのが常識となっている。しかし、18世紀前半に活躍したバッハの場合を考察すると、かれ自身が手紙等のなかで自分の作品をWerkと呼ぶことは殆どなく、楽曲はかれの仕事の単なる結節点に過ぎなかったことが分かる。それが「作品」化するのは、かれの死後、18世紀後半にかれの作品を受け取った人びとにおいてのことであった。久保光志は「カントと《藝術作品》を論じた。すなわち『判断力批判』(1790年)第48節を取り上げて、そこに作品概念もしくは作品像の変貌の現実を捉えた。すなわち、快を旨とする「趣味の作品」から「天才の作品」への変化であり、後者において心情を高揚させる性質や独創性が藝術作品の最も重要な契機として強調されるようになり、ここに近代的な藝術作品の概念が成立したことになる。最後に渡辺裕は「作品概念と楽譜」を取り上げた。問題は音楽における作品の内と外との境界に係わり、現代における作品概念の再考の一角を担う研究である。すなわち常識では、作品の内部的な規定は楽譜によって与えられており、それを演奏することによって音楽作品は現実化される、と考えられている。しかし、客観的に一義的に見られている楽譜が、実はその時代の演奏上の慣習を前提として書かれており、この部分は歴史的に変化してゆく可能性をもっている。渡辺は、ベートーヴェンとショパンに実例に則しつつ、作品の内実が歴史的に変化してゆくメカニズムについて、考察をおこなった。なお、3月には相澤照明が「イギリスにおける諸藝術比較論と作品概念」について研究報告を行う予定である。
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Research Products
(18 results)
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[Publications] 小田部胤久: "詩と哲学-芸術は「哲学の機関にして証書」でありうるか-" シェリング年報. 4. 25-34 (1996)
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[Publications] 小田部胤久: "近代的「所有権」思想と「芸術」概念" 批評空間. II/2. 51-61 (1997)
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[Publications] 小田部胤久: "独創性とその源泉" 美学. 188. (1997)
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[Publications] 小田部胤久: "ルソーとスミス" 美学藝術学研究. 15. (1997)
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[Publications] 松田 聡: "モ-ツァルトの未完のオペラ-ブッファ『だまされた花婿』における序曲" 美学藝術学研究. 15. (1997)
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[Publications] 佐々木 健一: "ディドロ『絵画論』-訳と註解(その14)" 美学藝術学研究. 15. (1997)
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[Publications] Ken-ichi SAsAki: "Aesthetic Life in the Anti-Urban Culture of Japan" Issues in Contemporary Culture and Aesthetic. 3. 58-64 (1996)
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[Publications] Ken-ichi Sasaki: "The Sexiness of Visuality-A Semantic Analysis of the Japanese Words Eye and Seening" Filozofski Vestnik. ZVII. 159-170 (1996)
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[Publications] 藤田一美: "ミ-メ-シスとしてのポイエ-シスの哲学における<エイコーン>(-)" 美学藝術学研究. 15. (1997)
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[Publications] 前田富士男: "部屋との対話-ヨーロッパ近代絵画における室内画" 『モスクワ・プ-シキン美術館名作展-室内への視線』図録. 14-19 (1996)
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[Publications] 前田富士男: "くもりとグリッド-ジョセフ・アルバースの作品" 『自律する色彩-ジョセフ・アルバース展』図録. 2-5 (1996)
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[Publications] 前田富士男: "エネルゲイアとしての造形-ゲーテの植物学と20世紀美術" 『心を癒す植物-アート・ボタニカルガ-デン展』図録. 7-11 (1996)
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[Publications] 前田富士男: "自由と透明をめぐる形態学-水彩画にみるヨーロッパ絵画の革新" 『ドイツ・ウルム美術館所蔵作品展-紙と表現』図録. 23-33 (1996)
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[Publications] 磯山 雅: "愛-信仰-希望?/ライトモチーフにたどる「救済」の音楽表現" ワーグナーヤ-ルブ-フ. 85-95 (1996)
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[Publications] 渡辺 裕: "ベートーヴェンのメトロノ-ム記号が語るもの" 美学藝術学研究. (1997)
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[Publications] 外山紀久子: "脱自のアルス:異文化経験としての舞踊" 『美学における感性・身体・共同体(第46回美学会全国大会におけるワークショップの編集)』. 192-216 (1996)
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[Publications] 小田部胤久: "From 'Representation'to'Sympathy'" 紀要(神戸大学文学部). 23. 33-48 (1996)
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[Publications] 磯山 雅(編著): "バッハ事典" 東京書籍, 599 (1996)