1996 Fiscal Year Annual Research Report
輸出志向型産業開発の政治経済的考察-南アジアと東南アジアからの試論
Project/Area Number |
07630056
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Research Institution | SUZUKA INTERNATIONAL UNIVERSITY |
Principal Investigator |
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木之内 秀彦 鈴鹿国際大学, 国際学部, 講師 (00204941)
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Keywords | 輸出志向型産業開発 / 外資導入 / 東南アジア |
Research Abstract |
過去2年間にわたり本研究を進めてきた過程で、本研究参加者が、最初はおぼろげに、最近では急速に確認できるに至ったことは、少し前まで破竹の勢いをみせていた東南アジアの経済成長に陰りが生じ、各国とも経済政策の再編成を模索する過渡期に入りつつあること、以前なら「外貨導入」と「輸出志向型産業開発」の二つの特徴で一括することもできた経済体質から同地域が脱皮ないし変容を迫られていること、にある。安価で豊富な労働力の存在という、つい少し前までなら同地域の経済成長・外貨誘致を支えてきた切り札も、最近では急速に神通力を失ってきた。マレーシアでは既に深刻な労働力不足が発生しており、外国人労働者の移入でそれを補填しているが、逆にそのことが社会問題にもなっている。同地域で経済発展の優等生とされたタイでは、比率の上では少ないとはいえ漸増しつつある中間層の間で晩婚化と小子化の傾向が先進国同様に顕著であり、この傾向が高進すれば人口の高齢化問題が労働力不足といった経済問題を越えた政策課題となることも決して杞憂とは言えない。全世界的に経済解放に向かっている現在では、或る国が「外資」を選ぶのではなく、外資が「国」を選ぶ状況になりつつある。資本の海外流出を食い止め、外資の導入を維持するために東南アジア諸国は税制や規制の緩和などの自由化で対処を図っているようだが、内外の民間活力を円滑化するこうした試みは逆に、依然人口の大部分を占める農村部門の向上という長期的で、民活では対処出来ない課題への資金配分がおろそかにされるおそれも生む。東南アジアは、外資に依存して、安価な労働力と不動産を武器に、先進国の消費市場に輸出することで成長を遂げる従来の体質から国内・域内市場へと重心を移行していると指摘されている。いわば広い意味での外需主導型経済から内需主導型経済への脱皮といえよう。とすればなおのこと、内需主導経済を支える国内消費市場、その大部分を占める農村部門の再定位と再編成、さらには農村部門の各国固有の歴史的・慣習的な構造特性などが火急の課題として浮上してくる。経済のグローバル化・自由化は東南アジア経済を活性化した反面、同地域がかつて享受した特権を剥奪し、同地域を国際経済の舞台における等価の選択肢の一つに過ぎなくさせているのかもしれない。予断は禁物だが、いずれにせよ、東南アジアの経済運営の正念場はこれからであろう。
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[Publications] ウパーリ・アーナンダ・クマーラ: "Opening of ASEAN Economies for Foreign Investment" CAMPANA : Susuka International Forum. No.1. 33-53 (1995)
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[Publications] 木之内秀彦: "地域介入合理化の非論理" 『総合的地域研究』成果報告書シリーズ. No.33. 16-62 (1997)
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[Publications] ウパーリ・アーナンダ・クマーラ: "Impacts of Transnational Corporations on Regional Development in the ASEAN Region" 国際連合地域開発センター,名古屋, 520 (1995)