Research Abstract |
近年,高い周波数と大出力を合わせ持つ,大型の高周波誘導加熱装置(以下,マイクロパルスシステムと呼ぶ)の開発が進み,これにより0.1〜0.3秒程度の超短時間で鋼の表面を変態点以上まで加熱することが可能となり,これを利用した表面焼入法に各方面から期待が寄せられている.このような新しい表面改質技術を広く実用化するためには,マイクロパルスシステムにより超急速加熱焼入れされた部材の組織変化と疲労特性を調べ,構造部材としての強度と信頼性の向上がどこまで可能となるかを明確にすることが重要と考えられるが,この点に関しては研究報告も少なく,不明な事柄が多く残されている. 本年度は,調質処理を施した構造用圧延鋼S45Cに,マイクロパルスシステムを用いて超急速加熱高周波焼入れを施し,種々の硬化層深さならびに残留応力分布を有する疲労試験片を準備し,それらに対して,回転曲げ疲れ試験を行い,疲労特性・破壊機構におよぼす表面硬化層の影響について検討・考察を加えた.得られた結論を以下に示す. (1)マイクロパルスシステムを用いて,超急速加熱高周波焼入れを施すことにより,極めて浅い硬化層と高い圧縮残留応力を有するモデル材的な試験片を製作することが可能である.その際,加熱時間を調整することにより,硬化層深さを系統的に変化させることができる.(2)浅い硬化層を有する試験片の場合,表面近傍に高い圧縮残留応力が存在するにもかかわらず,未処理材と比較して疲労特性の向上はわずかである.これは,この場合の主き裂が,硬化層直下の非硬化部を起点として発生することが原因である.(3)硬化層が深い場合には,疲労破壊は硬化層内に存在する介在物を起点として発生する.この場合,負荷応力が低い場合には,Fish eye型破壊を示すが,負荷応力が比較的高い場合には,破壊は表面直下に存在する介在物を起点として生じる.(4)硬化層深さの増加にともない,破壊モードが硬化層直下の非硬化部を起点とする内部型破壊から硬化層内に破壊起点が位置する硬化層破壊型へと遷移する.かかる破壊モード遷移の原因は,「試験片内部における局所の疲労強度が,硬さ分布等に依存して階段状に変化し,破壊は負荷応力が材料のもつ疲労強度を越えた箇所から生じる」とする考え方を導入することで矛盾なく説明することができる.
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