1996 Fiscal Year Annual Research Report
旧ユ-ゴスラヴィア多民族戦争の経済的背景・原因・帰結
Project/Area Number |
08630036
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩田 昌征 千葉大学, 法経学部, 教授 (60125284)
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Keywords | 旧ユ-ゴスラヴィア / 多民族 / 民族紛争 / ボスニア / ボスニア・ムスリム / セルビア |
Research Abstract |
社会有の私有化をめぐる階級形成斗争論では、ボスニアの多民族戦争が都会よりも山村・農村地帯で激化した事実を説明できなかった。何故なら、社会主義ユ-ユスラヴィアの農地は大部分私有地であったから。またトラクラ-等の農業機械も相当に私有財産であった。すなわち、社会有財産の分取り合戦における民族間対立は起り得なかった。 1996年夏の現地調査でサライェヴォで入手した一冊の本がこの疑問を解いてくれた。『ボスニア・ムスリム人に対する経済的ジェノサイド』(1992年)によれば、社会主義崩壊直後にムスリム人は、ボスニアの土地の私有権の見直しを新しい国家体制の最重要任務に設定していた。1918年のセルビア人・クロアチア人・スロヴェニア人国王(ユ-ゴスラヴィア王国)の成立と同時に、ボスニアにおいて地主的土地所有の解体=農地改革が断行された。地主(旧領主)のムスリム人が没落し、小作人(旧農奴)のセルビア人やクロアチア人が自営農民=土地所有者に転化した。これを称して、「ボスニア・ムスリム人に対する経済的ジェノサイド」と言う。社会主義ユ-ゴスラヴィアも農地改革を深化させた。この社会プロセスは、日本の農地改革と同じく決して社会主義的なものではないが、社会主義ユ-ユスラヴィアの崩壊と同時に、ボスニア・ムスリム人は、70年前の改革によって成立していた土地所有関係の正統性に疑問を投げかけた。すなわち、セルビア人農民の側からすれば、ムスリム人国家が成立すれば、自分達の農地所有が奪われるという危機意識を持たざるを得なかったと思われる。セルビア人村の土地がムスリム人村の、あるいは都市のムスリム人のものになるかも知れない。この事がボスニア・セルビア人の「好戦性」を説明するし、村のセルビア人が都市に対して示した攻撃性を説明する一つの大きなファクターであろう。 この事実は、欧米の研究者・観察者によって認識されていないし、ミロシェヴィチ大統領夫人のようにボスニア・セルビア人の民族主義を非難して、「高地人の好戦性」(ボスニア・セルビア人の好戦性)と「温和な低地人」(●温和なセルビア・セルビア人)は対比する者●によって察知されていない。セルビアやクロアチアには階級形成斗争はあるが、既成の私有権の急激な見直し=階級再編斗争はなった。それに対して、ボスニアには両斗争があり、相乗的に社会を不安におとし入れたのである。
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Research Products
(1 results)