1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610059
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
潮江 宏三 京都市立芸術大学, 美術学部, 教授 (60046373)
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Keywords | イギリス / 15世紀 / 絵画史 / 中世美術 / 写本絵画 / 壁画 / 板絵 / ルード・スクリーン |
Research Abstract |
前年度に行ったイギリス中世絵画史の概略的な展開についての考察をもとに観察すると、写本絵画においては、14世紀から15世紀初頭にかけての時期がピークであり、15世紀になると急速な衰退の徴候が見られ始める。一方、壁画は、保存状態のいい遺品こそ少ないが、いわゆるロマネスク時代には、大陸に見劣りしないようなしっかりした表現が行われていた。その後のゴシック時代の壁画もまた、14世紀あたりがやはりピークであり、特に宮廷の周辺では華やかな展開を見せる。しかし、現存する遺品には、地方の教会のものが多く、それらの絵では、聖書等のテクストの解釈や図像表現に地域独特のものがあることが観察される。15世紀のものは、残念ながら、保存状態のいい壁画の残存例はあまり多くなく、壁画からイギリス絵画の様相を観察することは難しい。これに対し、板絵に関しては、すでに14世紀半ば頃から、一般にネーデルランド絵画の影響を受けながら、発展してきたと見られる。大陸の板絵は、発展のなかで独自の価値を築いてきたが、イギリスでは、写本絵画との結びつきが強い。14世紀では、板絵は、祭壇背後の衝立に描かれる例が多いが、15世紀の第2四半世紀以降くらいから、イースト・アングリア地方を中心に、ルード・スクリーンと呼ばれる内陣仕切りに聖人画像等の絵画が装飾されるようになる。これは、イギリス独自のジャンルを形成しており、様式的には、ネーデルランドの影響の濃いものもあるが、基本的には、地方固有の絵画的伝統も反映している。大陸に比べると、この種の絵画は、かなり素朴なものではあるが、平面的な図示性と装飾性に配慮した独特の絵画伝統が、政治の混乱期でも、したたかに存在していたことを示している。 図像的観点からみても、ある特別な選択のしかたが存在しているし、アトリビュート等についても独特のものが観察される。
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