1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10410003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今井 知正 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50110284)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野矢 茂樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (50198636)
村田 純一 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (40134407)
山脇 直司 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30158323)
宮本 久雄 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50157682)
山本 巍 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (70012515)
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Keywords | 合理性 / 暴力 / 感情と信念 / 行為の記述 / 多元主義 |
Research Abstract |
今年度は諸般の事情で全体としての研究活動の開始が遅れ、海外の研究者とのセッションが組めなかったなどの計画変更があったが、可能なかぎり来年度の研究にむけた問題の洗い出しに全力を注ぎ、次のような知見をえることができた。(1) カント倫理学における理性の自律について検討し、これが「普遍化可能性を基準とした理性のみによる自己決定」というもっとも強い合理性であることを確認した上で、それが感情や信念といった「非合理的なもの」と結びついている点に検討を加え、ある意味での暴力性を秘めている可能性を明らかにした。そのうえで、感情の地平での合理性のあらわれかたという検討課題が浮上した。 (2) さらにはブラトン批判などでのデリダの思考にロゴスの暴力性の問題を探り、合理性と暴力とが不可分であることを確認した上で、歴史認識の場面で「証言」によってしか記憶、伝達できないものという「否定され忘却されるものの尊厳の回復」にかかる暴力性をつぐなうロゴスの可能性があることを指摘した。 (3)行為の意図せぬ結果と記述の問題に即して、結果からみた行為の論理性を検討した。これは多分に記述の問題でもあるが、それが「基礎行為」 「意図」などといった行為の本質をなすものの同一性認定、およびそれ以外の行為にとって非本質的なものを切り捨てるといった思考であることを解明し、かかる思考が合理性の問題においてどのような意味を持つかという問題点を明らかにした。 (4) Walzerの思想などの検討を通じ、自己が多くの次元に分割されて(divided)成立しているとともに、それぞれの次元(特に、国民というレヴエル)が文化的・歴史的な伝統の強力な影響下に成立しているという図式が、経済社会という公共世界の問題を考える上でどのように活かされるべきかを考え、現代の日本に生きるわれわれの立場から公共世界の合理性を相対化する必要があるという認識に達した。
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[Publications] 山本 巍: "中間者の現実-アリストテレスの視点から-" 哲学雑誌. 1-20 (1998)
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[Publications] 山本 巍: "こころの内は外-ソクラテスの対話の現実-" 哲学・科学史論叢. 1. 1-37 (1999)
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[Publications] 山脇直司: "歴史主義再考" 義江他編「歴史の対位法」(東京大学出版会). 229-244 (1998)
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[Publications] 山脇直司: "パブリック・フィロソフィの再構想" 山脇他編「現代日本のパブリック・フィロソフィ」(新世社). 1-20 (1998)
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[Publications] 村田純一: "Colors in the life-world" Continental Philosophy Review. 31. 293-305 (1998)
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[Publications] 村田純一: "Technologies and Life-Worlds-Toward a Hermeneutics of Technologies" Ogwa & Lazarin(ed.)Intellectuelle Philosophie and Phanomenologie in Japan. 153-166 (1998)
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[Publications] 村田純一: "The Indeterminacy of Images:An Approach to a Phenomenology of Imagination" B.Hophins(ed.)Phenomenology:Japanese and American Perspectives. 169-183 (1998)
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[Publications] 高橋哲哉: "否定論の時代" 小森・高橋編「ナショナル・ヒストリーを超えて」. 215-230 (1998)
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[Publications] 信原幸弘: "クオリアから見た心と脳" 心理学評論. 41. 230-240 (1998)
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[Publications] 野矢茂樹: "行為とできごとに関するいくつかの所見" 哲学・科学史論叢. 1. 39-78 (1999)
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[Publications] 宮本久雄: "他者の可能性-絶滅(シュアー)の時代における記憶と証言-" 地球化時代のキリスト教. 45-62
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[Publications] 宮本久雄: "関わるということ" 共に育つ. 9. 9-26 (1998)
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[Publications] 野矢茂樹: "無限論の教室" 講談社, 235 (1998)
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[Publications] 高橋哲哉: "デリダ-脱構築-" 講談社, 330 (1998)
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[Publications] 宮本久雄: "福音書の言語宇宙" 岩波書店, 300 (1999)