1998 Fiscal Year Annual Research Report
制作技法からみた船絵馬の時代考証と作画復元のための研究
Project/Area Number |
10610313
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Research Institution | (財)元興寺文化財研究所 |
Principal Investigator |
日高 里佳 (石井 里佳) (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (30250351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日高 真吾 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (40270772)
菅井 裕子 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (20250350)
山内 章 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90174573)
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Keywords | 船絵馬 / 量産型絵馬 / 彩画技法 / 図柄 / 絵具の種類 / 色数 / 背景 / 北前船 |
Research Abstract |
埼玉県、千葉県(房総半島)、福井県(北陸)、京都府宮津市(丹後半島)、香川県高松市(瀬戸内海)などの船絵馬を調査した。現在、船絵馬の残存率は北陸地方が圧倒的に高い。北陸を中心に北前船が繁栄したことが関係すると考えられる。調査によれば、北陸地方の各県が平均300点以上の船絵馬を保存しているのに、瀬戸内地方の各県は平均50枚程度である。比較的多く残っている広島県などでも120枚程度と北陸地方には遠く及ばない。奉納が少ないのか、現存する絵馬が少ないだけなのか。未調査の地方もあるので、来年度の調査で詳しく調べたい。 また、船絵馬の多くは、海を航海する商船である。特に、日本海側では、その傾向が強い。太平洋側へ行くと、漁船、漁猟場面の絵馬が多くなる。量産型絵馬はほとんど見られなくなる。関東地方において利根川などの水運を祈願した船絵馬が見られるかと考えたが、船のみを描いた絵馬は見られなかった。わずかに、進水式の絵馬が見られた程度で、多くは港や堤などを描いた比較的大きな絵馬であった。 当該調査で確認した量産型船絵馬の図柄の特徴は、以下の通りである。背景には、海から半分出た太陽、住吉大社などが描かれている。しかし、太陽が中空にあるものは古い年代の絵馬に見られた。明治期の絵馬には、住吉大社はほとんど見られず、背景遠くに、多数の船が小さく描かれている。簡略に帆のみが白く点で描かれているものもあった。奉納年、願主名などは、赤く縁取りをした白地の囲みの中に書かれている。 海難船絵馬は、多くの船絵馬と同様に左を向いている。量産型船絵馬の船体部分には印刷した紙が張られているものが多いが、難破船の場合も同様である。印刷した紙を斜めに張り、波を被っている部分は上から絵具を塗り、大波の様子を表現している。帆を降ろした船、帆柱を倒した船など、実際に海難に遭った場合の対処法を描いている。 これまでの調査で、彩画技法は13通りに分類できることを確認しているが、10年度に調査した結果は、この分類の範疇に入るものであり、加えて、絵馬の縦、横の寸法の比が分類の要素になると推測できる手掛かりを得た。絵具の種類は宝歴から文化期においては、黄土、丹、弁柄、緑青、藍の具が主体であるが、文政期以降は、胡粉、黄土、朱、弁柄、緑青、藍が基本となる。安政期以降から明治にかけては、藍に代わって合成群青が使われるようになり、雲形に真鍮泥の彩色が認められる。彩色については、絵具の種類と共に、色数も作画傾向を推測する手掛かりになると考えられる。
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