2010 Fiscal Year Annual Research Report
戦前期大蔵省専売局による塩需給調整政策の展開―植民地塩による調整機能を中心に―
Project/Area Number |
10J02653
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 廉孝 慶應義塾大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 日本経済史 / 塩専売制度 / 東京商品取引所 / 定期取引(先物取引) / 指標価格形成機能 / 大日本塩業協会 / 「公益専売」 |
Research Abstract |
本年度は,塩専売制度の成立過程の検討に力点を置き,その成果は以下の2点に要約される。第1は,塩専売制度成立以前における食塩市場の分析である。具体的には,1894~1905年における東京商品取引所食塩定期取引(先物取引)について価格データを用いた計量分析を行い,定期取引価格が現物価格の予想価格となっていたか否かを検討した(平成22年度政治経済学・経済史学会全国大会にて報告)。そして定期取引価格は,様々な銘柄の食塩が取引される現物市場の一部銘柄の現物価格を先取りしていた時期はあったものの,1900年以降には定期取引価格と現物価格とは何ら関係性を持たなくなったことが判明した。こうした原因には,受渡品検査など制度の不備,台湾塩移入開始による現物市場の構造変化が挙げられ,塩専売制度成立前の食塩市場は短期間に大きく変化していたことが明らかになった。 第2は,製塩業の同業者団体大日本塩業協会について,設立時における同会の役割と性格について考察した(『日本塩業の研究』第32集,2011年3月,51・77頁)。先行研究においては,日清戦後の食塩輸移入量増加に対する製塩業界の危機意識を体現して同会は設立されたと把握されてきた。しかし本研究における貿易統計の精査と会員名簿の分析より,大日本塩業協会設立当初において輸移入防遏策の必要性を主張していたのは農商務省官吏であり,製塩業界は輸移入量増加への危機意識を持っていなかったことが判明した。塩専売制度の成立過程において多様な議論が展開された同会の性格把握は基礎的作業として不可欠であり,今後に当該議論を検討する際には同会の会員構成の変化なども視野に収めつつ考察を進める必要が明らかになった。 以上の研究成果を踏まえつつ,引き続き来年度も「公益専売」と称された塩専売制度が約1世紀継続した要因を明らかにすることで,近代日本の経済政策における「公益」の一端を機能面から解明することを目指していく。
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