Research Abstract |
本年度得られた結果は,下記に示すとおりである。 1)光質がVA菌根菌の生長に及ぼす影響を各種類のLEDを用いて詳細に調査したところ,オレンジ色から遠赤色光の波長は菌糸生長を促進するが,青色光の波長は阻害することを明らかにした。この傾向は他の外生菌根菌においても同様であった(谷内ら,2001)。現在,この技術や,下記の新規の物質などの活用によって,さらに人工培養技術の改善を行っているところである。 2)二,三の植物の根溢泌物を採取し,これらに含まれるVA菌根菌生長促進物質の単離・同定を行ったところ,活性のあるフラボノイドを単離するとともに,新規のVA菌根菌生長促進物質を得た(未発表)。 3)VA菌根共生のメカニズムを解析するために,菌根菌が一般に感染しないと言われているアブラナ科植物などを用いて調査した。その結果,これらの非菌根植物でさえも,根が水ストレスを受けたとき,わずかであるが菌根が形成されることを明らかにした。つまり,VA菌根共生は,これまで筆者ら(石井ら,1996)がVA菌根共生に重要なシグナル物質であると報告していたエチレンの生合成と密接な関係があることを示唆した(堀井ら,2002)。さらに遺伝子解析が進んでいるアブラナ科植物の一つであるシロナズナの中から,菌根菌がよく感染する個体を発見した(未発表)。この植物の遺伝子解析を行い,VA菌根共生に関係する遺伝子を見いだしつつあるところである(未発表)。 4)草とVA菌根菌のつながり,つまり菌糸によるネットワークの形成を生理・生態学的に詳しく調査した。その結果カラタチやパパイアの間に,バヒアグラス,キビ,ナギナタガヤのような菌根菌がよく感染する植物を間作すると,菌根菌菌糸によるネットワークが容易に形成されることを高解像度のCCDカメラで観察することができた(Cruz et al.,2000;Cruz et al.,2002;Cruz et al.,in press)。しかし,非菌根植物を間作すると,菌糸によるネットワーク形成は劣り,裸地状態にするとほとんどネットワークはみられなかった(Cruz et al.,2000;Cruz et al.,2002)。これらの原因の一つとして,根から溶出される物質の影響が大であり,菌根植物の根溢泌物は菌根菌の生長を促進的に,反対に非菌根植物では抑制的に働いていることを明らかにした(Cruz et al.,2002)。このように,現在果樹園で急速に普及しつつあるナギナタガヤ草生栽培法は菌根菌の増殖を助けるとともに,この菌の菌糸による植物間の物質移動が容易に行われていることを示唆している。ちなみに,^<13>Cを用いた実験においても,草から取り込まれた^<13>CO_2は菌根菌菌糸を経由して,その周辺のカンキツ樹へ短時間で運ばれることを明らかにしている(未発表)。
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