Research Abstract |
ここ数年,青少年におけるいじめ,不登校,学級崩壊,さらに凶悪な暴力事件の問題が蔓延している.一見別件として扱われやすいこれらの青少年問題だが,社会心理学的な集団構造・文化論的視座から再検討すると「異質なものに対する拒絶・排除」という共通点が見受けられ,それに基づいた予防介入が示唆される.数多くの社会心理学的研究で実証されているように,自分の内・外集団の成員の区別による認知によって,相手を自分の間に境界線を引き,差別的な態度や行動を起こしやすくなる.この傾向はわが国に限ったものではないが,日本では「異端者」を排除し,内集団の同質性を高めようとする傾向が強く見られると言われている(e.g.,赤坂,1987,Markus & Kitayama,1991).他者との差異を理解し,その異質性に対して受容的な認知や態度を示すことは,人間関係を円滑に保つ上で不可欠であると同時に心理的充実感にも重要である.以上述べてきたように,異質性に対する態度がさまざまな社会問題に関連しているとするならば,21世紀を迎えて更なる多様性と異質性に富むと思われる社会生活では,青少年の主たる場(setting)である学校等における異質性に対する理解や態度への介入の意義は大きい.本研究の目的は,日本における青少年(特に高校生)に拘わる社会問題への新しい視座として多文化エコロジカルアプローチの可能性を探り,高校生個人の態度・感情と同時に,彼らが認知する学校・家庭・近所・非直接的な知り合いの文化的習熟度(Cultural Competence)の測定を試みた.さらに,その測定尺度の信頼性・妥当性も検討し,生活満足度等の関連も検討した.この研究の基本的モデルとなったのは,Sasao(1995)で示された社会的要因の「入れ籠状の社会影響モデル」に基き,各々の社会的ユニットが互いに交差し合い,さらにそのユニット内でも社会的文脈があることを示している.つまり,クロス・コンテクスト多様化への態度(Attitudes toward Diversity in Cross-Context Situations:ATD-CCS)は,コンテクストごとに定義され,「日本を含むマルチ文化社会において,自・内集団の中でも,機能的に適応(well-being)を維持,促進する信念,態度,価値観,能力,動機,その他種々のライフスキル」の
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総称として理解する. 方法 本研究では,3ヶ国(日本,米国,韓国)において,データを収集した或いは現時点でも収集中であるが,日本においては岡山県,東京都,及び愛知県内にある公立・私立高校の主に1,2年生1,592人(M=868,F=715)を対象にデータを収集した.地域性によるデータの相違が懸念されたが,男女比,海外経験,多様性(転入生,留学生,障害者等)の経験においてほぼ類似していたため,今回の分析では3地域を統合したサンプルを使用した.米国及び韓国のデータは,約450名ずつ回収中である.ATD-CCSの82項目は,日本語で最初に作成され,韓国語及び英語にはバック・トランスレーション法で訳され,修正が加えられた. 結果と考察Principal Factors因子抽出法・Varimax回転を実行した結果,最終的には,39項目が残り,4因子(多様性に対する開放性,異文化接触にたいする感情反応,対人関係における開放性,他者にみる感情的異文化開放性の認知)が確認された.各因子ごとの信頼係数はすべてα=.89以上であった.さらに、各因子と基準関連及び予測的妥当性を検討するため,抑うつ傾向,生活満足度,及び外集団に対する態度との相関係数を検討した結果,予測通りであった.最後に,階層的重回帰分析を行ったが,全体の説明率は低かったが(10%弱).抑うつ傾向を従属変数とすると,異文化接触に対する感情反応が否定的であれば抑うつ傾向が高い結果がでた.また,生活満足度のモデルでは,他の因子,つまり開放性の要因が高い満足度を有意に予測した.本研究では,「学校-家庭-コミュニティ」を結ぶ概念としての文化的習熟度(Cultural Competence:Sasao,1995)を日本の高校生がおかれているコンテクストを念頭に尺度を作成したが,そのATD-CC Scaleの信頼性(内的整合性)及び妥当性が確認された.さらに,日本の青少年問題等は,当事者及びその人たちを取り巻くコンテクストが交叉する場,さらに「文化」の問題として再定義された.今後,個人レベルにおける従来の臨床心理学的アプローチに加え,Bronfennbrennerらが提唱するような高次元での心理アセスメントが重要視されるであろう.ATD-CC Scaleで示された4つの因子の相互関連及び構造を韓国・北米とのデータ比較によりさらなる概念の明確化に向けた課題がある. Less
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