1999 Fiscal Year Annual Research Report
南アフリカ文学と社会-南アフリカ現代史再構築にむけて
Project/Area Number |
11610548
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
楠瀬 佳子 京都精華大学, 人文学部, 教授 (00200204)
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Keywords | 南アフリカ / 文学 / 社会 / ポストアパルトヘイト / 女性作家 / 人種対立 / 真実和解委員会 / 実存状況 |
Research Abstract |
歴史とは、過去の連続線上に現在があり、過去の絶えまない再構築をくり返し、歴史は書き換えられていく。だが、誰にとっての歴史であるのかという視点を絶えず確認しなければならないだろう。とりわけ、南アフリカではアパルトヘイト政策のもとに、白人支配の立場から歴史が語られてきた。アフリカ人は長年にわたりあらゆる人権が奪われ、歴史から意図的に抹殺され、歪曲されたのである。こうした人種の強迫観念にとらわれた歴史をどのように書き換えるかは、過去を問い直し、現代と未来を再構築するであり、国民国家をどう形成するかにつながる。 2年余りにわたり真実和解委員会に奇せられた犠牲者や加害者の証言は、南アフリカ現代史を大きく書き換え、社会変容の過渡期を理解するうえで重要な資料となった。そして南アフリカ現代文学に新たな題材と方向性を与えつつある。ジェーン・テーラは『ウブと真実和解委員会』(98)という舞台脚本を書き、上演活動を行なっている。さらにアンキー・クロッフは『わが祖国の頭蓋骨』という小説を出版して、アフリカ人と白人の間にある人種感情の和解をはかろうとする。そして、ここで取りあげるシンディエ・マゴナの『母から母へ』(98)は、アフリカ人の母親が白人女性を殺害した息子を理解するために、白人の犠牲者の母親に宛てた手紙形式の小説を発表した。ポストアパルトヘイトに誕生したTVドキュメンタリ番組でも、人種間の対立を極力さけ、どうすれば人種協調が可能かを模索する。 作家はアパルトヘイトヘの怒りを直接的に表現する手法から、人間の心理を詳細にえぐり出し、矛盾を抱えた人間社会の本質へ迫ろうとする。このように、人間の実存状況を政治力学からではなく深層心理からの解釈を迫られているのである。
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Research Products
(1 results)