Research Abstract |
Wistar系雄性ラットにトルエン(1,500ppm)を1日,4時間,4,7,10日間吸入させ,病理組織学的,生化学的に検討した.その結果,副腎重量は,4日目,7日目と増加し,10日目で低下の傾向を示した.いずれの吸入日数においても,副腎重量は,対照群に比し,重量を増しており,特に7日目では有意に増加していた.組織学的に観察した結果,トルエン吸入群において,髄質に明らかな変化は認められなかったが,皮質領域が拡大していた.(1)皮質の変化について:免疫組織学的に観察したところ,アルドステロン陽性の球状層に明らかな変化は認められず,コルチコステロン陽性の束状層の肥厚が認められた.形質転換成長因子(TGF-β1)を観察したところ,束状層を中心として,TGF-β1陽性細胞の領域が拡大していた.血清ACTHの測定を行った結果,ACTH濃度は,4日目,7日目と増加し,10日目で低下していた.(2)髄質の変化について:免疫組織化学的にグリア系細胞由来神経栄養因子(GDNF)を染色したところ,トルエン吸入群では,免疫組織化学的にGDNFの良好な染色像が得られた.そこで,酵素免疫測定法(ELISA)を用いて,副腎組織中のGDNFの定量を行った.その結果,組織中のGDNFは,4日目,7日目と増加し,10日目で低下の傾向に転じていた. 以上の結果より,トルエン吸入による,副腎肥大は,(1)皮質の肥大を特徴とする.(2)皮質肥大は,ACTHを介した,視床-下垂体-副腎系の変化に基づくと考えられた.(3)皮質の肥大は,TGF-β1の発現を伴っており,皮質細胞の変化を生じている可能性が示唆された.トルエン吸入により,髄質にGDNFが発現していたことから,(4)トルエンによる脊髄障害に対応した,神経保護作用の発現が示唆された.
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