Research Abstract |
稀少動物遺伝資源としての口之島野生化牛(以下、野生化牛)の保護と活用を図るため,生態,形態・解剖,疾病,遺伝・育種,繁殖および産肉能力などの特性を明らかにした。本年度得られた結果は以下のとおりである。 1.2001年における野生化牛の生息確認頭数は夏季に13頭および秋季に24頭(うち5頭が重複個体)であり,前年までと比べ減少していることが明らかとなった。また,島内一周道路沿いの草地にはキチマダニとフタトゲチマダニが生息しているのが観察された。さらに,数頭の野生化牛の遺骸が確認され,外部および内部寄生虫による感染症や水場の枯渇による飲用水の供給不足がその一因と推察された。 2.野生化牛の骨格雄10例,雌29例の全身晒骨標本のうち,とくに頭蓋と四肢骨について形態計測学的に解析して,黒毛和種および日本在来牛の1つである見島牛との比較も行ったところ,野生化牛雄は見島牛雄と黒毛和種雌とほぼ同じ大きさであり,野生化牛雌は見島牛雌とほぼ同じ大きさで最も小さかった。また,野生化牛の全身の主な筋肉の構造について組織計測学および組織化学的に検索するとともに,黒毛和種およびホルスタイン種との比較を行ったところ,野生化牛の筋線維は最も細くて密度が高く,筋線維型割合はII型線維が多いものの,他種との差は認められなかった。 3.野生化牛と同島に放牧されている黒毛和種牛の血液検査および消化管内寄生虫の虫卵検査を比較検討した結果,野生化牛は保有するウイルスと消化管寄生虫の種類は独特の閉鎖された環境特有の微生物相を有していた。 4.鹿児島大学農学部附属農場入来牧場で病死した野生化牛2例について病理学的検査を行ったところ,2例に共通して多数の膵蛭寄生がみられたことより,野生化牛に膵蛭が広く蔓延しているものと思われた。 5.野生化牛,黒毛和種,褐毛和種,日本短角種および無角和種の遺伝子構成について,遺伝子マーカーとしてAFLPを用い,比較を行ったところ,野生化牛は他の和牛品種に比べて多型遺伝子座の割合が極めて低く,遺伝的変異性の低い集団であることが判明し,多型を示した108遺伝子座のうち,野生化牛を特定する変異は認められなかった。 6.牛卵子の体外成熟過程や牛体外受精や体細胞クローン胚の発生過程におけるテロメアーゼおよびテロメアーゼ逆転写酵素遺伝子発現状況を検討した結果,テロメアーゼ遺伝子発現量は体外操作胚発生能力のモニタリング物質となることが示され,生殖工学的システムによる稀少動物の保護・増殖に大いに役立つものと考えられた。また,野生化牛雌では発情周期中の卵巣で卵胞の発育・退行が規則的に繰り返される卵胞波が見られ,雄の凍結融解精子を用い,体外受精由来胚が作出でき,人工授精した雌が受胎した。 7.黒毛和種慣行肥育法(若齢肥育)に準じた野生化牛去勢雄2頭の肥育試験を行った結果,累積日増体量は0.46kg,歩留基準値は70.3%,肉質等級および脂肪交雑等級は2〜3であることが判明した。
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