2001 Fiscal Year Annual Research Report
革命ロシアにおけるネップ体制の成立過程に関する研究
Project/Area Number |
12610385
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
梶川 伸一 金沢大学, 文学部, 教授 (50194733)
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Keywords | ネップ / ボリシェヴィキ権力 / 共同体農民 |
Research Abstract |
本年度の研究により、次のことが確認された。 内戦期の対立構造は基本的にはボリシェヴィキ権力と共同体農民とのそれであったとしても、それは限定的であった。なぜなら、権力や共同体が重層的敵対関係を内包していたからだけでなく、もっとも大きな理由として、対立の構造的基盤をなすはずの伝統的社会集団は大きく組み替えを余儀なくされていたからである。都市では飢えた労働者は故郷に帰り、プロレタリアートなき都市はその生産性と共に革命性を失った。農村では、帰還した労働者や動員解除兵士が一因となって、土地を巡る紛争が絶えなかった。また農村でも、飢餓民は時には村丸ごと、南東部または東部への移住民、より正確には避難民となった。徴兵と動員、内戦の激化は人口動態的な変化を生じさせ、それを、灘民、兵役忌避者、様々な流民が促した。伝染病の信じがたい猖獗があった。 この人口学的、社会的変動=流動化の再編過程を、ネップ体制の基本原理と考えるなら、従来主張されているような割当徴発から現物税への移行は政策上重要な意味を持たず、都市の復興と農村住民の共同体への固定化の枠内で、この体制の成立を検討するのが妥当であろう。しかしながら、このような体制の成立は、次の二点で、中央権力の意図に反して、経済システムの分裂を促した。第一は、言うまでもなく革命以前の都市と農村との対立を復活させ、第二は、経済の中央集権的システムと地域経済の亀裂である。現物税制度は穀物調達については全国的システムを整序化することに成功したが、この制度の導入と共に供給制度を廃止したために、地方住民は国家システムではなく、地域経済への依存を余儀なくされた結果が、これであった。後者の具体的過程を検討するのが今後の課題である。
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