2000 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀フランス農村における市民的規範の受容に関する研究
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12610392
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
槙原 茂 島根大学, 教育学部, 助教授 (00209412)
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Keywords | 農村 / 市民 / 農民 / アソシエーション / ソシアビリテ / 文明化 / 民衆教育 / 図書館 |
Research Abstract |
平成12年度の研究は、これまでの研究で明らかになっていた民衆教育結社(アソシエーション)網の形成過程を踏まえて、よりミクロな視角から農村において市民的諸規範がいかに受容されたのかを問おうとした。この観点から、フランス滞在を中心とする史料・文献の収集や現地研究者との交流も行った。とくにパリのプロテスタント史協会図書館での調査によって、運動の具体相について多くの知見を得ることができた。12年度の研究で明らかになったことは、おおよそ以下のとおりである。 1860〜80年代にかけて、自由帝政、第三共和政の公教育相によって支持された学校図書館が急速に広まった。一方で、中流階級によって主導されたフランクリン協会と教育同盟による民衆図書館の設立運動も精力的に展開され、大半の地方に図書館網を形成するにいたった。農村住民は図書館の蔵書に親しんだが、それらは夜の集いヴェイエで朗読されることが多かった。この過程は全体として、村の結合関係に新たな要素をもたらし、読書サークルに代表される、より開かれた平等主義的な結合も生まれた。 自由主義ブルジョワ、とりわけ共和主義者は、当時読み書きを習得しつつあった下層階級、とくに農民層を文明化・教化するために、この運動に積極的に参加した。ところが読者は、小説や旅行記など娯楽的な読み物を選好し、科学や産業、道徳に関する書物はほとんど読まれなかった。結局、この民衆図書館運動は、農村民衆の知育・徳育よりも、他の結社運動と合わさって、民主的政治体制の構造的な基盤づくりに貢献したといえよう。 但し、現地研究者の助言によって、当初期待していた村落レベルでの実証はかなり難しいこともわかった。この点を踏まえ、次年度の研究はやや方向を変え、地方レベルでのセーフティネットの形成(例えば、消防団)過程を跡づける予定である。
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