2001 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス産業革命前夜の工芸と産業:工芸振興協会による染色業振興策
Project/Area Number |
12610397
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
大野 誠 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (60233227)
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Keywords | 工芸振興協会 / 染色業 / 少年・少女絵画コンクール / 受賞者の経歴調査 |
Research Abstract |
工芸振興協会(1754年にロンドンで設立)は、イングランドでの産業振興をめざして、工芸、製造業、化学、農業などの分野での発明・物品などに懸賞金を交付する活動を行い、設立当初から染色業振興を重視してきた。この方面での振興についても機つかの方策が試みられたが、本研究が対象としたのは、産業に直接たずさわる若手工芸職人の育成をめざして設立以降一貫して行われた「少年・少女絵画コンクール」についてである。 この活動の成果を明らかにするために、本研究では初期10年間の受賞者百数十名について、ロンドンでの史料収集を含めて経歴調査を行った。 結果の概要は次の通りである。(1)受賞前の経歴について特徴的な点は、受賞者の多数が家族や親方のもとですでに絵画の技法を身につけていたことである。とりわけ、最初期の受賞者のなかには、協会の設立提案者で、画家のウィリアム・シップリの絵画学校の生徒が多数含まれていた。したがって、コンクールは「埋もれた原石」を発見する場というよりも、美術家を目指す者たちにとっての「登竜門」として機能した。(2)受賞後については、当時設立された美術団体の会員になったり、これらの団体が主催する展覧会で作品を発表する者が多かった。しかし、たとえばキャリコ捺染業に従事したものは、ごく少数に止まっていた。結局、協会の目論見どうりに事は運ばなかったわけだが、英国美術の担い手を多数輩出した点で、このコンクールの果たした役割は大きかったと言える。
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