2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610532
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 敏広 京都大学, 総合人間学部, 助教授 (60194495)
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Keywords | トーマス・マン / エロス / ナショナリズム / フリードリヒ2世 / 同性愛 / ナチズム / 実証的文学研究 |
Research Abstract |
トーマス・マンの時事評論『フリードリヒと大同盟』(1914年)が、必ずしも歴史的・政治的な問題に限定されない「超時代的な偉大さ」をテーマとする「小説」として元来構想されていたことは、近年の実証的研究によりすでによく知られている。しかし、フリードリヒの同性愛については、新しい『注釈付きフランクフルト版』全集の解説などで簡単に指摘されている以外、ほとんど問題にされていない。一方私は、かつて留学先のミュンヘンで、この問題を考えるに当って極めて重要だと思われる資料を発見した。それは、息子クラウスの評論『ナチズムと同性愛』のオリジナル原稿へのトーマス・マンの書込みである。本研究において私は、この資料の信憑性と重要性について検討し、その後この資料に基づいてフリードリヒの同性愛について考察した結果、次のような結論をえた。 すなわち、クラウスが亡命初期の段階では、ある意味で表面的なエロスと政治の関係、すな1わち性的スキャンダルを現実政治的な力学のベクトルの一つと考える構造しか考えていなかったのに対して、トーマス・マンは、エロスとナショナリズムがその本質において通底する部分を持つというエロスと政治の構造を絶えず念頭に置いていたこと、そしてその通底する部分は必ずしもナチズムのような忌まわしい形を取るとは限らず、「創造性」の根源でもあると彼が考えていたことなどである。 これは、トーマス・マンの同性愛観についての従来の通説を部分的に同性愛とナチズムとの繋がりという形で具体的に確証すると同時に、他方、同性愛と創造性の繋がりの指摘により新しいトーマス・マン像を示す、画期的な成果である。またこれは、文学とエロスと政治の深層構造を端的に示す一例としても大きな意味があると言える。
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Research Products
(1 results)