Research Abstract |
人工現実感(VR)は,医療・福祉・教育など多岐にわたる分野での応用が期待されている.そのため,VR技術を利用したシステムの構築には,安全性や快適性など,様々な人間特性への配慮が欠かせない.しかし,実際には,これらの特性を十分に考慮したVRシステムというものはほとんどなく,「酔い」などの生体に好ましくない反応を起こさせない安全なシステム開発のための設計指針づくりが望まれている状況にある. そこで,私たちは,VRシステムにおいての「酔い」の発生の予防あるいは軽減する方法を探ることを目的とする研究に着手した.ここでは,特に,視運動刺激が誘発する自己運動感覚(Vection)に着目し,それを前庭刺激や聴覚刺激などの視覚以外の異種感覚情報によって制御あるいは抑制可能かどうかについて調べた.その結果,回転刺激や音刺激のような異種感覚入力によって,「酔い」にかかわると考えられる視覚誘導性の自己運動感覚を減少させ得ることがわかった. また,上記の実験と並行して,今年度は,現実環境と仮想環境の情報を巧みに重ねられる複合現実感(MR)向け視覚ディスプレイ(Video See-through HMD)における時間的あるいは空間的な「ずれ」の生体影響を調べた.ここでの生体影響とは,手指と視覚の協調作業の効率に対する影響を指す.まず,空間的な「ずれ」に関しては,奥行きの空間情報を評価対象として,2D-HMDと3D-HMDにおける作業効率・主観負荷量・調節応答速度を定量的に調べ,比較検討した.その結果,手指による作業(ペグの挿抜作業)を行う場合は,両眼視差と輻輳による奥行き情報を含む3D-HMDを用いる方が,作業効率・主観的負荷量・視機能的負荷のいずれの面でも好ましいことがわかった.また,時間的な「ずれ」に関しては,画像更新のフレームレートを10〜30fpsの範囲で変化させ,作業効率と主観負荷量を測定した.その結果,この範囲ではフレームレートが高い滑らかな動きの画像ほど作業効率が高くなり,主観的な負荷量も軽減することがわかった.ゆえに,MR環境下で細かな作業を行う際には,奥行き情報をもつ3D-HMDを用い,フレームレートは少なくとも30fps以上に設定する必要があるという設計指針が得られた.
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